philosophy

ジョルジョ・アガンベン「開かれー人間と動物」

この本は、アガンベンの政治哲学、特に生権力に関して彼が述べるときにその基礎とする、人間の身体と生そのものをめぐる議論の一部です。「剥き出しの生」を、人間から動物にまで思考の範囲を広げて考察し、位置付ける。主にハイデガーを用いての論証。以下…

ジル・ドゥルーズ「記号と事件1972-1990年の対話」

原題は「折衝Pourparlers」。精神科医フェリックス・ガタリとの共著「アンチ・オイディプス」を出版して以降に、彼が発した談話のテクストをまとめたもの。訳者あとがきによると、彼は本来は対談は好まないらしいが、主に新刊書イヴェントの際に否応でもメデ…

ジル・ドゥルーズ、サミュエル・ベケット「消尽したもの」

ペドロ・コスタという名のポルトガルの映画監督が発表した「コロッサル・ユース」という作品は、とても不思議な画面を持っている。カメラが殆ど動かず、背景は静止画像のままでその中を人物が横切る。しかもその背景ですら、念入りに遠近感を排除させてトリ…

スラヴォイ・ジジェク「ラカンはこう読め!」

ラカン関連の本を読んでいて曖昧に理解してた箇所がいくぶんすっきりした。ラカン入門書・紹介書というよりは、サブテキストとしていい本だなという印象。 ラカン理論のわかりにくい概念「象徴界・想像界・現実界」をとてもうまく表現していてまずそれが嬉し…

田崎英明「無能な者たちの共同体」

前の日のメモ見ててあー前向き人間て何でもこう捉えちゃうのねー、と嘆息しました。芳しからぬことはすべて正しきことの反動であってしかもそれすら肯定しうる、という。でもそうじゃないでしょ、ってこの本読んだ後自分の文章見て思った。 「空の青み」にお…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート「マルチチュード(下)」

先週末に開催されたシンポジウム「新たなるコモンウェルスを求めて」に行ったよ。ネグリさんは電話対話のみで、登壇者は姜尚中・上野千鶴子・鵜飼哲・石田英敬。この4者だと圧倒的に上野さんに敬意を払う雰囲気になるようで、しかし彼女はさほどネグリに詳…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート「マルチチュード(上)」

ネグリが来日できないことになった。彼がイタリアで実刑判決を受けていたことが、公安上嫌われたらしい。皮肉なものだ、マルチチュードの自由な移動が、<帝国>によって一時撤退を余儀なくされたとは。彼の来日はおそらく「延期」なのだろう、さもなくば彼…

ジョルジョ・アガンベン「アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人」

アウシュビッツ収容所の生存者による証言について書いた本。 アウシュビッツの大量虐殺が神聖化されることを彼は非常に危惧してて、彼は、「ホロコースト:丸焼きの犠牲」「ショアー:神の罰による壊滅」という言い方を採用しないことに決める。つまり、そこ…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート「<帝国>」

本文だけで500ページ、厚さ4cmの大著!第一部で公安・警察・国家、第二部でポストコロニアリズム・ポストモダニズム、第三部で政治・経済、それぞれについて<帝国>を考察し、第四部で結という構成だ。第一部と第二部が最近読んでる分野と地続きになってた…

ミルチャ・エリアーデ「永遠回帰の神話」

マイトレイをあんだけ残酷にふったダメ男がこういう研究をするとはくっそー、と思いますがおもしろいアルケオロジーです。宗教的儀式からその祖型を見いだして、それが担っていた意義を論じてるんだけど、その意義が他のものに転嫁されていくようすを描き出…

大宮勘一郎「ベンヤミンの通行路」

曇り空の日の風景は繊細で美しい、と感じたことがあった。数週間前の午前中、等々力の駅から多摩川の方向へまっすぐにのびる道を、遅刻しないように足早に、ぱらつきはじめた雨が顔にかからないように俯いて、ただひたすら歩いていて、環八との交差点に差し…

ジャック・デリダ「雄羊」

世界は消え失せている、私はおまえを担わなければならない。 表面上は不首尾に終わった哲学者同士の対話、うちどちらかが亡くなったときに、或いは亡くなる前からすでに、片割れに内在されていた対話について。デリダが、ガダマーとまたはツェランとの間で、…

ジョルジョ・アガンベン「例外状態」

3年前にたった一冊読んだきりのアガンベンが、奥歯にずっと挟まった状態のままでいて、脳死とか死刑論とかいった生死問題に言及する人文書を読むたびに彼の味がじわーっと滲み出してきていた。その本は「ホモ・サケル」、man-sacred=聖なる人間、脳死判定を…

仲俣暁生/舞城王太郎/愛媛川十三「「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか」

「鍵のかかった部屋」はポール・オースターの小説タイトルで私は未読なんですが、あーこーいうメタミステリなんだ、ということがこの本読んでて判ってしまったんですがそれはいいのでしょうか。まあいっか。多分読まない。オースターちょっとぬるいし。…とい…

ジャック・デリダ「他の岬」

…文化なしには、ただし他者の文化としての自己の文化、二重属格と自己への差異の文化としての自己の文化なしには、自己への関係も自己への同一化も存在しない。二重属格の文法はまた、ある文化はけっして唯一の起源をもたないことをも指示している。文化の歴…

ピーター・ゲイ「神なきユダヤ人」

「A GODLESS JEW」は、フロイトの言葉からの引用。「ところで、敬虔な信仰者が誰一人として精神分析を創造しなかったのはなぜでしょう。そのためには完全に神なきユダヤ人を待たなければならなかったのは、どうしてなのでしょうか。」 本そのものは、フロイ…

斉藤環「生き延びるためのラカン」

読んでてニヤニヤ笑いがとまりませんでした。 パンチラとか腐女子とかのネタ、あるいはユングやフロイトのゴシップ、あるいは中井久夫やジジェクへの言及、等どんな人でも必ず何かには興味ひかれるだろうという動機づけがちりばめられていて、とにかく何とし…

ビチェ・ベンヴェヌート+ロジャー・ケネディ「ラカンの仕事」

感動的にわかりやすい!ラカン初心者に超オススメしたい。 第一に、ラカンの思想を各論文に分けてそれぞれ20ページ程度でコンパクトに解説してるのが良い。「胸像段階(幼児が鏡に移った自分の姿を見て、自分の外部に主体を形成するという論)」も「盗まれた…

ジャック・ラカン「家族複合」

ラカン強化中。かなりランダムに選書したはずなのに、デリダもバトラーもジジェクもラカンをレファレンスしてるんだもんな、無視できない。でも「エクリ」には踏み切れない…。

スラヴォイ・ジジェク「斜めから見る」

ヒッチコックを主な題材として、ラカン的にストーリーを分析し、登場人物がどのような作用を表現しているのかを論じている書。ヒッチコック映画はあまり見てないが、ヒッチコック的スリラー/サスペンス/ホラーは活字では大変なじみがあるので(中高生時代…

ジュディス・バトラー「ジェンダー・トラブル」

性(ジェンダーは勿論、セックスまでも)がいかにして人工的に構築されたのかを論じるのがこの本の主旨。1990年に出版されて、当時のジェンダー論を刷新したのらしい。 政治/権力/法/禁止などが身体に配備させる性欲の機構に関してフーコーを援用し、メラ…

ジャック・デリダ「触覚、―ジャン=リュック・ナンシーに触れる」

漸く読了。携帯するにはボリュームがありすぎる本なのでなかなか読む時間がとりにくかったし…。 ナンシーやデリダの持つ厳密さは、一般的な意味での厳密さとすこし異なる気がする。(ところで本書の中で、デリダはナンシーの厳密さに言及している。)以前に…

「現代思想 10月臨時増刊 ジュディス・バトラー」

論者によって意見のブレや用語訳出の仕方が違うあたりが、現在進行形で記述される哲学のおもしろい側面だと思う。そしてまた、現代社会や政治に関するコミットメントが要請されることも同様に。チョムスキーやサイード、ソンタグからは遠く世代の離れたバト…

カトリーヌ・マラブー 「わたしたちの脳をどうするか」

わたしがまだ幼い頃には、身体における心の存在場所は心臓だと言われることもあった。感情の昂りに呼応する臓器。ところがいつの間にか心臓は代替可能な存在になり下がり、心停止は人の死とは見なされなくなった。そして身体の未知領域であり今のところは移…

マックス・ヴェーバー「職業としての政治」

1919年1月、第一次世界大戦敗戦後のドイツで開かれた学生のための講演会録。論旨がとても明瞭で分りやすいです。政治が暴力を基盤としていること、また施政者の類型や出自の変遷、コーカスなど選挙システムについて、政治とは本来相容れない倫理の問題につい…

マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」

ヴェーバーの一連の比較宗教社会学研究の、一角をなす論考のようです。タイトルで宗教と経済を同列に並べてますが、資本主義そのものに関する考察は皆無です。資本主義国家として一大帝国を築き上げた北部アメリカは、ピューリタン(プロテスタント)の移植…

フィリップ・ラクー=ラバルト/ジャン=リュック・ナンシー「ナチ神話」

ナチによる民族意識高揚がどのように起こったのかを考察した本。100ページに満たない。ナショナリズムの宣揚にはしばしば神話が使われる。太平洋戦争における靖国神社を思い浮かべると理解しやすい、戦死し英霊として祀られること。神話が模倣され(ミメーシ…

アルフォンソ・リンギス「何も共有していない者たちの共同体」

死をとおした連帯「死の共同体」についていろいろ考えさせるもの。(この点でナンシーさんつながり。) アフリカや中東、遠い異国の地で今日も多くの人々が戦争や貧困のうちに亡くなっているということは、多くの人がわかっていること。ただどうやったって、…

エドワード・W・サイード「知識人とは何か」

英BBCの講演シリーズの収録です。なのでとても読みやすい。 コロンビア大でのサイードの講義の聴講生選抜で、ベトナム退役軍人(空軍)に「軍隊で君は実際に何をしてきたか」と問うたところ、「目標捕捉」と返答されて衝撃を受けた、というくだりに不謹慎に…

ジャン=リュック・ナンシー「私に触れるな──ノリ・メ・タンゲレ」

「自由」とは定義されたもの以外のものを定義しようとする概念だけれど、そういう方法で「自由」を定義しようとした途端にすでに定義づけられてしまうのでそれはもはや自由な「自由」ではない。そうして、永遠に「…以外のもの、…以外のもの、」を繰り返す身…