2008-01-01から1年間の記事一覧

ケルテース・イムレ「運命ではなく」

Imre Kertesz「Sorstalansag」 ただ与えられた状況があるだけだし、その中にさらに新たな状況があるだけだ、……僕も与えられた僕の運命を最後まで生きた。僕の運命じゃなかったけれど、僕は最後まで生きたのだ。……もしすべてが運命でしかないなら、自由などあ…

吉増剛造「花火の家の入口で」

幼年のわたしがさくらを見た日。その日わたしは老衰 した。庭にひびいた紙笛の散る里、……わたしはわた しの人生を思い出す。(時は、少しも、足りなくなか った。百年がたち、百五十年がたっ、た、……。)

宮本常一「日本人の住まい」

たしか筑摩書房のPR誌上だったと思うが、作家の桜庭一樹とちくま書房の編集者とが、新しく編纂された「ちくま日本文学」の作家選定について四方山話をしていた。(桜庭一樹があまりにブッキッシュなのに驚いた。)民俗学からいま選ぶんなら柳田國男と折口信…

ミシェル・フーコー「狂気の歴史」

Michel Foucault「Madness and Civilization」 ヨーロッパに於ける中世以降フロイト以前の、狂気と人間社会との関係について論じた大著。フーコー入魂の一冊です!600ページ超の鈍器!各監禁施設の収容人員から当時の医師の所見、治療法に至るまで、史実を綿…

日丸屋秀和「ヘタリア AxisPowers(2)」

1巻にひきつづき2巻も、友人にいただいてしまいました。彼の中ではわたしはサブカル担当になったんでしょうか?お色気担当になってしまうよりはだいぶいいのですが、今まで知性をアピールしてきたはずなのにそれには全然成功してません。 あ、それでヘタリア…

マリー・ンディアイ「みんな友だち」

Marie NDiaye「Tous mes amis」 ある一般的な感情、社会現象的に蔓延するような意識、それはほとんど症候と名付けてもいいと思うけれど、それに対して治療を施すような形で供給される物語があると思う。 「泣ける物語」は、需要と供給との間にとてもいい関係…

ジル・ドゥルーズ「批評と臨床」

Gilles Deleuze「Essays Critical and Clinical」 ドゥルーズもバートルビー論書いてるよー、ってアガンベンが言ってたので読んでみたんですが。畜生わたしはドゥルーズなんて断じて好きじゃないんだぜ、今読んでるフーコーが大著すぎなのであくまで彼はサブ…

西尾維新「きみとぼくが壊した世界」

ラノベです。というよりはラノベの体裁をとった、ジュブナイル向け正統派ミステリィかな?良質なSFである「涼宮ハルヒの憂鬱」を読んでも同じハメに陥るんだろうなあと思うけど、萌えやキャラ立てを軽くこなせるほど鍛錬してないからいちいち蹴つまづくし、…

デイヴィッド・ルーカス「カクレンボ・ジャクソン」

いい絵本を発見。子供ができたら読ませたいのでメモしとく。ていうかまずは相手からですよね〜。

石川雅之「もやしもん(5)〜(6)」

「菌類のふしぎ」展を見た。「もやしもん」を案内役に最大限使ってる展覧会です。類似分野のプロと、なんだか知らんが物おぼえがいい人(でも冬虫夏草と十二指腸を必ず間違う)と、わいわい言いながらいっしょに巡回。 オリゼーかわいい。6巻付属のぬいぐる…

ジョルジョ・アガンベン「バートルビー 偶然性について」

Giorgio Agamben I would prefer not to. ハーマン・メルヴィル「代書人バートルビー」において、バートルビーが雇用主の法律家に対して執拗に繰り返す台詞だ。 「しないほうがいいのですが。」 「なぜ拒むんだ?」 「しないほうがいいのですが。」 「したく…

舞城王太郎「好き好き大好き超愛してる。」

「愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に…

ジョルジョ・アガンベン「スタンツェー西洋文化における言葉とイメージ」

Giorgio Agamben「Stanzas: Word and Phantasm in Western Culture」 スタンツァは、あらゆる(詩の)技法を収容するに足る小部屋もしくは容器を意味する。(ダンテ「俗語詩論」) インスピレーションを受けて詩作をすることと、ロジカルに批評を構築してい…

サミュエル・ベケット「マロウンは死ぬ」

Samuel Beckett「Malone Dies」 「とうとうもうじきわたしは完全に死ぬだろう、結局のところ。」 ある男が個室のベッドに伏している。身体が不具でわずかに手しか動かない。彼は自分がどうしてここにいるのかが定かではない。なにか乗り物で運ばれてきたよう…

マリー・ンディアイ「心ふさがれて」

Marie NDiaye「Mon cœur a l'etroit」 昨夜、東京日仏学院で、マリー・ンディアイ/笠間直穂子(この本の翻訳者)/ミカエル・フォリエの鼎談をきいた。彼女はセネガルとフランスの混血で、フランスの片田舎に育ち今はベルリンに住んでいる。アフリカ系特有…

ジョルジョ・アガンベン「人権の彼方に―政治哲学ノート」

Giorgio Agamben「Means without Ends」 幸せになりたい。 この感情は、実際には他者への羨望でしかないと思った。明らかに幸せそうである人たちを目の前にして、彼は蚊帳の外にいる。「幸せになってほしい」「幸せにしてあげたい」というありふれた、でもあ…

松本昌次+上野明雄+鷲尾賢也「わたしの戦後出版史」

埴谷雄高、丸山眞男、野間宏、木下順二など戦後思想のトップランナーたちと仕事をした編集者、松本昌次氏の述懐録。上野氏と鷲尾氏が聞き手をつとめている。両名はそれぞれ大手出版社の元取締役だが、松本氏は小規模な出版社の立場で仕事を続けていて、まだ…

ブルーノ・シュルツ「シュルツ全小説」

Bruno Schulz もしシュルツ自身が狂人ではなかったとしたなら、彼のこの偏執狂的な想像力をどう扱ったらいいんだろう? 収録されている作品には短篇が多いから移動中読むにはうってつけ、ということで、バスを待つ間ゴハンを待つ間メトロに乗ってる間、とぎ…

ジル・ドゥルーズ+クレール・パルネ「対話」

Gilles Deleuze & Claire Parnet 「Dialogues」 まあ彼は頭が良すぎるんだよ、でもそこが彼のいいところでしょ、いやそれくらいは大目にみてやってよ。わたしがぶつぶつ不満をこぼしてるのを友人らが口々にとりなそうとするので、放置決定してたはずのドゥル…

日丸屋秀和「ヘタリア AxisPowers」

コミックです。イタリアとかドイツとか日本とかアメリカとかイギリスとか、国家を擬人化して、史実や国民性をコミカルに焼き直してショートストーリーに仕立てた漫画。「非線形科学」とこの本とを、同じ人に推薦してもらっています。以前会ったときに、ああ…

蔵本由紀「非線形科学」

自然界で一見ランダムに見える現象にも実は美しい数式(アルゴリズム)がかくされている、という視点のもとに、共振現象やフラクタルなどの考え方を、一般の人に理解できる形で概説した紹介書。あくまでエントリーモデルなので、書店で目次を見て既視感のあ…

フェルナンド・ペソア「ペソア詩集」

Fernando Pessoa ぼくはなにであったのか 自分を見出したとき ・・・・・・・・・・・・・・Fernando Pessoa ぼくはすでに失われていた ぼくは苛立ってぼくの許を去った 否定されたことになお固執する 狂人の許を去るごとく わたしが死んでから 伝記を書くひ…

ジョルジョ・アガンベン「瀆神」

Giorgio Agamben「Profanazioni」 帯文にこう書いてある、「仕上げたばかりのこの小さな書物において、わたしは自分にとってたいへん重要な主題について、可能なかぎり明確に述べたのです。」神への冒瀆というこのタイトルと、本のサイズが聖書に似ているの…

ジャック・ランシエール「民主主義への憎悪」

Jacques Rancière「La haine de la démocratie」 民主主義はその大前提として人間がみな平等であるが(共和主義においては平等は獲得されるべき目標でしかない)、そのことに対しては根本的な憎悪感がつきまとう。私生児や妾腹の子供に対する差別感情はもち…

舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日(上)(下)」

ふはははははははははは!ガッデムディスコシット。みたいな不敵な元気さが舞城くんに戻ってきて、超よろこばしい限りです。「新潮」での連載が終わってからもう1年以上でしょ待ったよ〜と思ったら下巻まるごと書き下ろし。迷子探し専門の米国人探偵・Disco…

二ノ宮知子「のだめカンタービレ(20)〜(21)」

祝・処女喪失。…って、イヤめでたくないなこれは。

ジョルジョ・アガンベン「幼児期と歴史ー経験の破壊と歴史の起源」

幼児期なんていう日本語だとずいぶん狭義になってしまうけど、インファンティア=言語活動の無い状態とそれによって産出される新たな歴史について述べた本。現代においては経験が破壊され剥奪されてしまって(卑近な例で言うと、周りの人に質問をする中で実…

ジョルジョ・アガンベン「残りの時ーパウロ講義」

新約聖書・パウロ書簡の註解書。「ローマ人への手紙」などに含まれる語彙そのものや、思想のありかたと変遷を、彼の依って立つ思想的立場から詳細に論考している。時間に関する考察が秀逸、ハイデガーとベンヤミンが主な参照元。自らの時間表象を把握するた…

永井荷風「墨東綺譚」

ひとやすみ。永井荷風と聞いて「四畳半襖の下張」をまっさきに思い出すとは、私は相当腐ってます。エロが属性って訳じゃないんだね。

サミュエル・ベケット「モロイ」

小説。ニ部構成で一人称語り。 第一部はモロイの独白が改行無しで延々100ページ以上続く。第二部はモロイの元に向かう調査員モランについて。 第一部と第二部が、偶然にしては過ぎるくらいに、彼らの行動や思想やその場所に関して類似性を持つに至る。彼らは…