ジョルジョ・アガンベン「裸性」

Giorgio Agamben「Nudities」 検察官の職権が限定的であった古代ローマの裁判において、中傷=誣告[虚偽の事実を言い立てて、他人を罪に陥れる犯罪]は司法機関にとってきわめて重大な脅威であり、偽証をした告発者は額にKの文字の焼印を捺され罰せられたほど…

舞城王太郎「短篇五芒星」

「衝動で動き出すだろ?動き出す以上、何か結果っつうか、答みたいなもんが欲しくなるだろ?その衝動にも何か意味付けしたくなるっつうか、まさか何もないなんて思いたくないだろ?でもさ、そのまさかなんだよ。衝動に根拠とか理由とかないから。まったくの…

ジークムント・フロイト「自我論集」

Sigmund Freud ・欲動とその運命 ・抑圧 ・子供が叩かれる ・快感原則の彼岸 ・自我とエス ・マゾヒズムの経済論的問題 ・否定 ・マジック・メモについてのノート 以上を収録。「快感原則の彼岸」の幼児の糸巻の遊びの部分をふときちんと読みたくなった。 ………

ジョルジョ・アガンベン「到来する共同体」

Giorgio Agamben「The Coming Community」 普遍的なものと個別的なもののアンチノミーを逃れているひとつの概念がずっと前からわたしたちによく知られていた。見本[esempio]という概念がそれである。見本がその力を発揮するどんな領域においても、見本の特徴…

スタニスワフ・レム「ソラリスの陽のもとに」

Stanislaw Lem「solaris」 ソラリスが発見されたのは私が生まれるよりも百年も前のことである。この惑星は赤と青の二つの太陽のまわりをまわっている。発見されて以来四十年以上もの間、この惑星に近づいた宇宙船は一つもなかった。当時にあっては、二重星を…

ジャック・ラカン「エクリ2」

Jacques Lacan「Ecrits」 だからこの大きな団体に持続する統一力は、ポーの天才が「ヴァルドマール氏の場合」という怪奇小説でわれわれに考察を求めている、特異な想像力を思わせるのである。 その男は、臨終に際して催眠術をかけられ、死骸を維持したまま死…

ジャック・ラカン「エクリ1」

Jacques Lacan「Ecrits」 ・論理的問題 刑務所の所長が三人の囚人をとくに選んで出頭させ、次のような意見を伝えた。 「きみたちのうち一人を釈放することになった。その理由はいまここで言うわけにはいかない。そこで、もしきみたちが賛成するなら、この一…

ミシェル・フーコー「監獄の誕生」

Michel Foucault「Discipline and Punish: The Birth of the Prison」 ……、<近代的な>法典の立案もしくは起草、……明確に述べられた普遍的な法典や整理統合された訴訟手続規則をふくむ制度上の大変革と、この身体刑の消滅とを比較した場合、それの重要性は…

ジョルジョ・アガンベン「事物のしるし 方法について」

Giorgio Agamben「The Signature of All Things: On Method」 美的判断で考えられる必然性としては、必然性はただ範例のかたちでしか定義されえない。つまり、提示することのできない一般的な規則の範例として見なしうる一つの判断に全員が合意するという必…

谷崎潤一郎「痴人の愛」

普通の場合「夜」と「暗黒」とは附き物ですけれど、私は常に「夜」を思うと、ナオミの肌の「白さ」を連想しないではいられませんでした。それは真っ昼間の、隈なく明るい「白さ」とは違って、汚れた、きたない、垢だらけな布団の中の、云わば襤褸に包まれた…

ミシェル・フーコー「性の歴史1 知への意思」

Michel Foucault「The History of Sexuality Vol.1:The Will to Knowledge」 次のような反論があるかも知れぬ。言説のこのような増殖は、そこに単なる量的な現象を、単純な増大であるような何かを見ただけでは間違いであると。つまりそこで言われている内容…

アビ・ヴァールブルク「蛇儀礼(クロイツリンゲン講演)」

Aby Warburg「Images from the Region of the Pueblo Indians of North America」 アガンベンをよく読むのだが、イコノグラフィー的な領域に突入すると引用元として頻出するのがヴァールブルクだ。Warburg Instituteで研究していたのが一因なのだが。いつか…

サイモン・シン「暗号解読(上)(下)」

Simon Singh「The Code Book」 「フェルマーの最終定理」はずいぶん前に読んだ。自然科学系の本はどうも敬遠しがちな私が彼の本をすいすい読んでしまうのは、ヒューマンドラマが描かれているためだと推察するのだが、そもそもそういう人文系の取っ掛かりがな…

トム・ロブ・スミス「チャイルド44」

Tom Rob Smith「Child44」 冷戦を知らない世代(1979年生)が描く旧ソ連スパイ物(正しくは国家保安省)という触れ込みに惹かれて読む。ヒーローとヒロインが美男美女というのは定番だが、この2人が最後まで愛し合わないというのは珍しい。2009年このミス1位…

湊かなえ「告白」

「道を踏み外して、その後更正した人よりも、もともと道を踏み外すようなことをしなかった人の方がえらいに決まっています。」「三年生の担任を持つと、受験を前にして『この子はやればできるんです』と保護者の方からよく言われるのですが、……『やればでき…

ジャン・ジュネ「花のノートルダム」

Jean Genet「Our Lady of the Flowers」 かつてディヴィーヌ自身が私に告白したように、私もこう告白することができる。私は微笑みながら、あるいは馬鹿笑いしながら、軽蔑に耐えている。だが、私がこうして自分を地べたよりも低いところに置いているのは、…

小島寛之「天才ガロアの発想力」

エヴァリスト・ガロア生誕200年ということで大型書店の理工フロアではフェアを組んでいて、で化学者と共にその棚の前に立ちどれを読もうかと考えた。結晶理論との関連は薄そうだし中高生向きの本みたいだけど、でも小島さんは数学プロパーじゃない人に対して…

パウロ・コエーリョ「悪魔とプリン嬢」

Paulo Coelho「The Devil and Miss Prym」 「君や君の町がどうということではない、私は自分のことしか考えていない──ひとりの人間の物語はすべての人間の物語なんだ。人間が善なのか悪なのか、私は知りたい。善なのであれば、神は公正だったということにな…

堀江敏幸「雪沼とその周辺」

単行本発刊直後、とはもう8年前になるのか、室内にうず高く積みあげられた本のドミノタワー何本も、その頂上のひとつにしばらく鎮座していた表紙、懐かしい。当時想像していたとおりに上質で洗練された静謐な短編集。雪沼を巡る村に住む人々のささやかでつま…

川上未映子「乳と卵」

2008年芥川賞受賞作。当時は、直木賞を同時期に受賞した桜庭一樹に比べて、見て呉れ優先のイマイチな扱いしかされてなかったように見えていた(実際、賞に至るまでの刊行数がフェアを組むには少なすぎた)、だが「ヘヴン」が出た辺りから、いつか読もうと思…

ジル・ドゥルーズ「シネマ2*時間イメージ」

Gilles Deleuze「Cinema2:The Time-Image」 レネの第一の新しさとは、中心あるいは固定点の消失である。死は今の現在を固定しない。それほど多くの死者が過去の諸相に棲息しているのだ。……概して、現在は浮遊し始め、不確定性に襲われ、人物の往来のうちに分…

レイモンド・チャンドラー「長いお別れ」

Raymond Chandler「The Long Goodbye」 「結婚のプレゼントか」 「ショー・ウィンドーで見つけたから買ったのといった具合のね。ぼくは何も不足のない人間なのさ」 「すてきな車だ。値段は聞きたくないがね」 彼はちらっと私の方を見て、ぬれた舗道に視線を…

アガサ・クリスティ「ミス・マープルと13の謎」 Agatha Christie「Miss Marple and The Thirteen Problems」 かわいいおばあちゃん探偵ミス・マープルが活躍するミステリ。自らが発した安楽椅子探偵ということばにつられて手にとったものの、彼女は直接現場…

ピーター・ラヴゼイ「偽のデュー警部」

Peter Lovesey「The False Inspector Dew」 英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー受賞作。知人の推薦本です。 物語は前半・後半・オマケに分かれていました。 前半は、歯科医ウォルターが愛人アルマと共に、妻殺害の計画立案をするに至るまでのメロドラマ。殺…

東川篤哉「謎解きはディナーのあとで」

知人の推薦本です。ジャケ買いだそうです。私もこの絵は魅力的だと思うので(森見登美彦「四畳半神話大系」原画展見ました)その言葉は真実でしょうが、ミステリファンを自称する人が本気でこの本を買って愉しんだというのはちょっと恥ずかしいので、ジャケ…

旦敬介「ライティング・マシーン―ウィリアム・S・バロウズ 」

" Love ? What is it ? The most natural painkiller what there is . Love. " William Seward Burroughs 「愛とは何だ?この世で一番自然な痛み止め。愛」(p.141) バロース加算機(現ユニシス・コーポレーション)の御曹司でハーバード卒。ちなみにお兄さん…

ステファヌ・ナドー「アンチ・オイディプスの使用マニュアル」

Stéphane Nadaud「Manuel à l'usage de ceux qui veulent réussir leur (anti)œdipe」 ナドーは、ガタリ「カフカの夢分析」で編者を務めた人として記憶していた。ポップ心理学popsyを批判した箇所は興味深い社会分析になっている。また「アンチ・オイディプ…

ジョルジョ・アガンベン「イタリア的カテゴリー」

Giorgio Agamben「Categorie italiane. Studi di poetica」 (「神曲」のイタリア語タイトルを直訳すると「神聖なる喜劇」となるが、)……ある本質的な問題に向かい合う姿勢を示している。つまり、神の正義を前にした人間の有罪と無罪という問題である。ダン…

サラ・ウォーターズ「半身」

Sarah Waters「Affinity」 日本でもベストセラーになっていたが、そりゃ確かに面白い。 ミステリというのは、登場人物や語り手(マーガレット・プライア)よりも早くに真実に気がついたら、そこから先はスリラーとして楽しむことになる。今回は、後ろ40%を…

ロラン・バルト「明るい部屋」

Roland Barthes「La Chambre claire」 「肖像写真」は、もろもろの力の対決の場である。そこでは、四つの想像物が、互いに入り乱れ、衝突し、変形し合う。カメラを向けられると、……奇妙な行動であるが、私は自分自身を模倣してやまないのである。だからこそ…