2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

サミュエル・ベケット「伴侶」

Samuel Beckett「Company」 ……同じ闇、あるいは別の闇のなかで、もう一人の人間が、すべてを自分の伴侶として想像する。ちょっと見たところ明白な言葉だ。だが、まじまじ見られるとそれは混乱する。しかも目がまじまじと見れば見るほど、それはよけいに混乱…

サミュエル・ベケット「見ちがい言いちがい」

Samuel Beckett「Ill Seen Ill Said」 もう幻でしかありえない。もう続かない。彼女とその他すべて。すっかり眼を閉じて、彼女を見るだけ。彼女とその他すべて。眼をすっかり閉じ、彼女を死ぬほど見ること。省略なしに。小屋で。砂利土の上で。野原で。霧の…

雑賀恵子「エコ・ロゴス」

……ともかく、人間存在の昏く根源的なところを揺さぶるおぞましさを、近代理性は、徹底的に退け、あるいは明るみのなかに引きずり出して馴化しようとしてきた。したがって、殺人は、刑法の体系のなかに属するが、食人の罪状は刑法には存在しない。自然─動物と…

奥田英朗「町長選挙」

変態精神科医、伊良部を主人公とするシリーズの3作目。4編収録の短篇集。うち、表題作以外の3編は、実在の人物をモデルに充てて描いている。 自分がこの連作に何を求めているのか理解した。最初は伊良部医師を胡散臭そうに見ていた患者が、次第に彼を認め彼…

W.G.ゼーバルト「空襲と文学」

Winfried Georg Sebald「On the Natural History of Destruction : With Essays on Alfred Andersch, Jean Amery, and Peter Weiss」 ・空襲と文学 チューリヒ大学講義より ・悪魔と紺碧の深海のあいだ 作家アルフレード・アンデルシュ ・夜鳥の眼で ジャン…

奥田英朗「空中ブランコ」

「イン・ザ・プール」の続編で、5編収録の短篇集。これも面白い。前作よりもさらに物語のバリエーションが広がっているように見える。 褒めてるんだか貶してるんだか自分でもよく分からなくなってきた。文芸作品に対する私のスタンスは、以下、トヨザキ社長…

W.G.ゼーバルト「目眩まし」

Winfried Georg Sebald「Vertigo (Schwindel. Gefühle.)」 ・ベール あるいは愛の面妖なことども ・異国へ(アレステロ) ・ドクター・Kのリーヴァ湯治旅 ・帰郷(イル・リトルノ・イン・パトリア) 以上の4篇を収録してある。アンリ・ベールとは作家スタン…

奥田英朗「イン・ザ・プール」

変態精神科医・伊良部の診療譚。5編収録の短篇集です。直木賞作家って伊達じゃないんだなと思った。きっちり読ませます。 1話目の表題作「イン・ザ・プール」を読んだ限りでは、あまりにも型にはまったエンタメぶりに辟易するばかりだった。人物造形は類型的…