奥田英朗「町長選挙」



変態精神科医、伊良部を主人公とするシリーズの3作目。4編収録の短篇集。うち、表題作以外の3編は、実在の人物をモデルに充てて描いている。
自分がこの連作に何を求めているのか理解した。最初は伊良部医師を胡散臭そうに見ていた患者が、次第に彼を認め彼の診療に身を委ねていくのが、読んでて心地よいのだ。こういう認識が生まれてしまうと、自分自身にゲンナリしてしまって、何だか追いかける気がしなくなる。目下これがシリーズ最新作ということで、ちょうどいい打ち止めだ。
そういえば森博嗣の西之園×犀川のミステリー・シリーズを読んでいたときは、2人の恋愛の進展に対する興味がシリーズを追いかける餌になっている、と気付いて読み止めたんだった。自己省察もほどほどにしたほうが娯楽は楽しめるかもしれない。