2010-01-01から1年間の記事一覧

ジャン・ジュネ「シャティーラの四時間」

Jean Genet「Four Hours in Shatila」 その時だった。家から出ようとする私を、突然の、ほとんど頰を弛ませるような軽い狂気の発作が襲った。……死者は男女とも皆イスラーム教徒なのだから屍衣に縫い込まれることになる。これだけの数の死者を埋葬するには、…

マルティン・ハイデガー「存在と時間(下)」

Martin Heidegger「Being and Time」 ……<ひと>は決して死にません。なぜなら、死がいつもわたしの死であり、本来的には先駆的覚悟性においてだけ、実存的に了解されるかぎり、<ひと>は死ぬことができないからです。決して死ぬことなく、終りへの存在を誤…

ウンベルト・サバ/須賀敦子 訳「ウンベルト・サバ詩集」

Umberto Saba リーナに はじめての、おごそかな 夜、呼び声を聴いた、キウ。 むかしの愛が、リーナ、 ふと記憶にかえる。 いくつの声が、あの声に応えたことか、 いくつの歌が、あの歌に! 君恋しさが胸を締めつけ、 忘れたことの、宥しをねがった。 ついこ…

米澤穂信「インシテミル」

仕事で席を並べている人が偶然にも森博嗣をかなり読んでいたと知った時点で物理トリックの素晴らしさと大事さを即座に大力説してしまった私はもちろん、ネイティブアメリカンの人形と言われただけでははぁんミステリファンはさぞやにやりとしたでしょうなと…

舞城王太郎「イキルキス」

以下3編収録。 ・イキルキス ・鼻クソご飯 ・パッキャラ魔道←「クラリネットをこわしちゃった」の後半部分の精神です 表題作で、福島学14歳が好きな女の子と倉に2人きりになる描写がおもしろい。まじかよーという思いで頭がクラクラしながら、大人になってく…

舞城王太郎「NECK」

首にまつわる、小説・脚本1(舞台上演済)・脚本2・脚本3(映画化済)の4つのおはなし。脚本2が最も良い。 舞城の良さ…というより私好みである理由の一つとして、アメリカB級映画のバタ臭さが感じられる点がある。もちろん冷めた目つきで、でもそういうのが…

舞城王太郎「獣の樹」

物語では、主人公ナルオの立派なたてがみが、彼が馬の子供であるという自覚を失った途端に剥がれ落ちてしまった。その背中の真皮組織の赤い水脹れを想像した。 その晩、わが畏友の焼けただれた背中を夢に見た。彼は、他の人の背中がそうでないのを羨んでいた…

ジョルジョ・アガンベン「王国と栄光ーオイコノミアと統治の神学的系譜学のために」

Giorgio Agamben「Regno e la Gloria: Per una genealogia teologica dell'economia e del governo」 権威と権力の根拠について,。読み終わってしばらく経った今この本の内容を自分のことばで概括すると、そういう単語が浮かんでくる。 君主(権威)と為政者…

舞城王太郎「獣の樹」

「喜びは鳥になる。悲しみは石になる。悪は木になる。アイウィルテルユーヴェリーヴェリーバァァァァッドシングスアンダーザブランチィズオブマイン。おいで、ナルオトヒコ。」 ナルオの立派なたてがみが、彼が馬の子であるという自覚を失った途端に剥がれ落…

ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」

Ludwig Wittgenstein「Tractatus」 ストーンボローStonborough邸の街区をぐるりと巡った。IN ADVANCE RESERVATIONだなんて、ドイツ語オンリーのウェブサイトじゃなかなか気がつかないよね?と、同類とおぼしき旅行者を目で追いかけた。まあこんなものだ、も…

ジョルジョ・アガンベン「思考の潜勢力」

Giorgio Agamben「La potenza del pensiero: Saggi e cinferenze」 意味をはっきり知ることのないままに馴染んだ言葉や物語があって、大人になってからその意味するところを聞いた途端、不気味になって使用するのをためらうことがある。たとえば童話とか童謡…

フランツ・カフカ「変身」

Frantz Kafka「The Metamorphosis」 さて、十何年ぶりかに読んだカフカだ。彼を紹介する文にある「…実直に務めた労働災害保険協会での日々は、官僚機構の冷酷奇怪な幻像を生む土壌となる…」「人間存在の不条理を主題とするシュルレアリスム風の作品群を残し…

内澤旬子「センセイの書斎」

人んちの書棚を眺めるのはおもしろい。わたしが眺めているのを、傍ではらはら査定待ちしている持ち主がいるとなおのことおもしろい。ベストセラーを渡り歩くだけのランダム・ウォークもあれば、はっきりとした趣向をもって継続的に本を読んでいるらしい形跡…

細野不二彦「ギャラリーフェイク(19)〜(32)」

ヤマザキマリ「テルマエ・ロマエ」

二ノ宮知子「平成よっぱらい研究所」

ひぐちアサ「おおきく振りかぶって(1)〜(14)」

マルティン・ハイデガー「存在と時間(中)」

Martin Heidegger「Being and Time」 ナニカについての語りはすべて、語りが語られたこと、において伝達するのですが、これはまた同時に、自分の意中を打ち明けるという性格をもっています。現存在は語りながら自分を発表するのですが、これは現存在がまず「…

マルティン・ハイデガー「存在と時間(上)」

Martin Heidegger「Being and Time」 メガネをかけているひとにとっては、メガネそのものは距離的にははなはだ近く、かれの「鼻にのっかっている」が、この使用中の道具は、かれにとっては、ま向うの壁にかかっている絵画よりも環境的には遥かに遠いのです。…

大江健三郎「水死」

自分が生をどうにか生き延びていくなかで、ふと大江がそばにより添ったことがあった。その時もやはり転回点を迎えていた。「個人的な体験」を読み進めることができない状況に陥り、わたしは、作中で大江に該当する人物がしたのとまったく同じく、床にただ茫…

野坂昭如「少女M」

……「御指名はございますか」「ない」女たちはみなうつむいていて顔は判らない。西洋人を指でしめした。毛唐女が好きなわけじゃない、本を読んでいたからだ。 …… 部屋へ戻り、ベッドに横たわると、やはりフェラチオにとりかかった。 「いや、それはいい」 「…

管啓次郎「斜線の旅」

鳥たちがいて鳥の歌がみちることが「楽園」なのだ。その背景には、鳥たちの発する音声を「歌」とみなす人の側の心がある。それにはヒトの進化の長い歴史と、その間に過ごしてきた生活環境の(鳥たちが住む土地が同時に何をもたらしてくれたかについての)記…

椎名軽穂「君に届け(9)〜(10)」

本編終了。いやぁ、恋愛ってほんっとうにいいもんですね〜。

堀江敏幸「熊の敷石」

彼の言いたいことは、それこそ「なんとなく」わかるような気がした。私は他人と交わるとき、その人物と「なんとなく」という感覚に基づく相互の理解が得られるか否かを判断し、呼吸があわなかった場合には、おそらくは自分にとって本当に必要な人間ではない…

ジョルジョ・アガンベン「言葉と死─否定性の場所にかんするゼミナール」

Giorgio Agamben「Language and Death: The Place of Negativity」 ……わたしたちはそれをわたしたちが感覚的確信のなかで言いたいとおもっているとおりのままには言っていないのである。しかしながら、見られるように、言葉で表現されたもののほうが(言いた…

乙一「ZOO(1)」

・カザリとヨーコ ・SEVEN ROOMS ・SO-far そ・ふぁー ・陽だまりの詩 ・ZOO 以上5編収録。乙一の短篇はとにかく好き。

ヴァルター・ベンヤミン「パサージュ論(5)ブルジョワジーの夢」

Walter Benjamin「The Archades Project/Das Passagen-Werk」 都会の雨には子どもの頃を夢のように思い起こさせるという、あなどれない魅力がある。しかしそれは、大都会に育った子どもでなければわからない。雨はいたるところ気づかぬようにひっそりと降り…