2007-01-01から1年間の記事一覧

ジャック・デリダ「雄羊」

世界は消え失せている、私はおまえを担わなければならない。 表面上は不首尾に終わった哲学者同士の対話、うちどちらかが亡くなったときに、或いは亡くなる前からすでに、片割れに内在されていた対話について。デリダが、ガダマーとまたはツェランとの間で、…

多木浩二「建築家・篠原一男」

篠原一男が亡くなったという報せを目にしたのは、六本木で呑気に黒豆コーヒーを啜りながら、ビル外壁のミラーガラスに映った電光掲示板のヘッドニュースをツラツラと眺めていたときだった。あんまりの突然さに泣いた、何故か涙が出たという感覚のほうが近い…

「未来」2007年12月号(No.495)

・ひとつもの凄いエッセイが収録されてるんですが、未来社さんマジですか?テーマはこれで良いとしても、内容と構成と文章そのものが雑誌全体のレベルから著しく離れているように思うんですが。れ、連載なのか。 ・小林康夫が連載「思考のパルティータ」で、…

J・M・クッツェー「夷狄を待ちながら」

国際交流基金による招聘でクッツェーが先週から来日していて、今日、新作「Diary of a Bad Year」の本人による朗読を聞きに行った。彼は長身で、赤い顔と、「snow-capped」としか言いようのない見事な白髪を持ち、聴衆というものに対して(数々の講演を行っ…

「UP」2007年11月号(No.421)

東京大学出版会のPR誌です。いつもは未來社のPR誌を読んでるんですが、いちばんの違いはやはり理系を扱ってること。ゲーデルくらいなら「現代思想」でも特集するけど、線遠近法だの超新星だのはなかなか無理でしょう。一般向けの啓蒙書ならば兎に角、理系の…

「未来」2007年10月号(No.493)

読むのが遅すぎ。しつこいようですが、長谷川摂子さんのエッセイは良いです。 あと9月号の読書メモに関して、エリアーデに言及してた小説家は大江ではなく平野啓一郎でした。ブレイクと勘違いした。

椎名軽穂「君に届け(5)」

ストーリーがやや失速。でも、人を好きになるっていいよね、と思わせてくれるだけでも上出来です。

二ノ宮知子「のだめカンタービレ(19)」

のだめとは全く関係ありませんが…、 ヒラリー・ハーンというヴァイオリニストが、米で大人気だと聞きました。彼女はスズキ・メソードまるだしの奏法をとるらしい。懐かしい!松本市出身なので、ごく身近な音楽教室として本部のピアノ科に行ってたけど、(系…

カトリーヌ・アルレー「死の匂い」

怖い怖い怖い怖い、アルレー怖い! 富も美貌も手中にしている高慢な悪女が、自分が操縦しているはずの男の知略に序序に墜ちて破滅(自滅)するまでのストーリー。「わらの女」と基本的な展開は同じなんだけど、何が怖いって、彼女の勝機が削がれて行くにつれ…

大江健三郎「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」

エドガー・アラン・ポーの詩「アナベル・リィ」をモティーフにした小説。日夏耿之介訳でときどき引用が挿入されている。ノーベル賞受賞作家や彼の映画監督の義兄や障害のある息子が出てきますが勿論私小説ではない。タイプとしては「人生の親戚」とか「もう…

ミルチャ・エリアーデ「マイトレイ」

20世紀を代表する宗教学者・エリアーデの自伝的恋愛小説。彼がインドで学問を修めたときの師の娘マイトレイとの恋愛とその破滅を描いたストーリー。若々しい自意識のみなぎるエリアーデの、インド娘に対する偏見や憧れが溢れている。人が恋に落ちるまでのそ…

私家版・世界十大小説(ノンジャンル)

先週から今週にかけて、はてな界隈で表題の件が流行ってたみたい。idiotapeさん私家版世界十大小説など。たまにはこういうのにも参加します。ここ数年以内に読んだもの限定で(昔のは印象が薄い)。 1. フラナリー・オコナー「オコナー短篇集」 2. 舞城王太…

ミルチャ・エリアーデ「令嬢クリスティナ」

エリアーデはルーマニアの宗教学者。エリアーデという名前はたびたび聞くので、黙殺することのできない存在なんだと思う多分。と言うか、わたしはそもそも現役の学者の著作を読むのが好きで、で中沢新一みたいな現役の宗教学者がふっと思いついてレファレン…

鏡明「不確定世界の探偵物語」

編集やってる人と書店に行くと、長時間滞在の代償なのかときどき文庫本をプレゼントしてくれる。ありがとうございます。たいていは私が自分で選書するんだけど、この本に限っては、あなたはこれを読んで、て言って渡された。和製SFです。大森望さんが解説を…

梨木香歩「沼地のある森を抜けて」

友人が梨木はよく読むかもと言っていたので手にとりました。なので、語り手の女性と話中の友人男性とを妙に私と彼に投影しちゃっていけません。男に興味の薄い理性的に振る舞おうとするキャリア女性と、男性性に嫌気がさして中性的である研究者肌の男性なん…

J・M・クッツェー「恥辱」

良いです。近年読んだ小説の中では、フラナリー・オコナーの短編以来かも。良いのか悪いのか彼女よりも読後感を言語化しやすいし。 初老の大学教員ラウリーが教え子と関係を持ったことを告発され役職を追われ、都落ちして、自分の娘がひとりで暮らす農園に同…

ジョルジョ・アガンベン「例外状態」

3年前にたった一冊読んだきりのアガンベンが、奥歯にずっと挟まった状態のままでいて、脳死とか死刑論とかいった生死問題に言及する人文書を読むたびに彼の味がじわーっと滲み出してきていた。その本は「ホモ・サケル」、man-sacred=聖なる人間、脳死判定を…

乙一「小生物語」

もともとオツイチは好きです。とてもやる気のないデザインのウェブサイトに、とてもやる気のない彼の日記が掲載されてるのにある時気が付いて、掲載当時に読んでました。今はサイトは閉鎖されてるはずだけど、その書籍化です。彼のは「とるこ日記」も読んじ…

「未来」2007年9月号(No.492)

メモです。 ・エリアーデ読んだら面白いかも。前にエリアーデが気になったのは…好きだと言ってたのは大江だったか? ・またしても孫引き、献辞「君はいつも耳をかたむけてくれたね/そのとおりに書くよ」

ガルシーア・ロルカ「ロルカ詩集 (世界現代詩文庫)」

わたしの窓から 頭を出して、わたしは知る 風の刃が どんなに頭を切り落としたがっているかを。 眼には見えない この断頭台に、わたしは載せた わたしのあらゆる欲望の 盲いた頭を。 …… ぼくがどんなにお前を愛しているか お前には決してわからないだろう な…

細野不ニ彦「ギャラリーフェイク(11)〜(18)」

10巻まではリアルタイムで読んでたので……10年越しのコンプを目指せ!でも借りた本。新国立劇場で現代悲劇を見る傍ら、「君に届け」とか「ギャラリーフェイク」の貸し借りやってる私ってカッコイイ(泣)。サラちゃんとフジタとの仲が全然進展しないけど、ま…

「未来」2007年8月号(No.491)

…私は抽象的な論理をたどるときでさえ、それを誰がどんな顔をして言っているのか、出来たら見てみたい、という気持ちを払拭しきれない具体派なのだ。確かに、学問の成果は個人を超えてこそ意味がある。少なくとも真理は非人称。数学の定理を誰が言ったか、そ…

「未来」2007年7月号(No.490)

今頃になって7月号。読むの遅っ。倉石信乃さんの(というより中平卓馬の)、マス・メディアが伝えるドキュメントがモニュメントになってく、という言いが良い。

J・M・クッツェー「エリザベス・コステロ」

エリザベス・コステロという女性作家が、自分の職業についてその目的や倫理観などを考える遍歴を描いたフィクション。 何らかの結論に辿り着くように書かれる論述よりも小説的で、登場人物の行為によって彼らの考えを読者が推測せねばならない小説よりも論述…

茂木健一郎「脳内現象」

クオリアの人です。(のだめの監修者のもぎぎとは別人物です。) もともと茂木さんに対してはかなり懐疑的だけど、啓蒙用の言説をあげつらって彼を批判しちゃうのはさすがに失礼すぎるので、まとまったのはどれ読んだらいいのかなと思っていたところ、斉藤環…

スティーヴン・キング「ハイスクール・パニック」

あたかも化学反応のように、キングを読めば私はこういうふうに楽しむことができる、というその予想は決して裏切られることがない。物語の設定がとても単純で、謎もほとんど設定されず、派手なアクションも起こらないのに、これだけ先へ先へと読ませてかつ重…

港千尋「映像論」

ミナトさんの文章は以前からあちこちで読んでいてすごく好きで、「映像論」やっぱり主著だし読もう読もうと思っていてようやく。写真家としての?感性的な描写や、史実に基づいた稠密な論、レトリックの巧みさ、広範な知識、などなどミナト節炸裂。すばらし…

ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ(4)」

何をここにメモしておいたらいいのか、むつかしい…。 ひとまず思ったのは、パスティーシュや文体の戯れが非常に多いから、日本語訳には翻訳者の意図が多分に含まれているという了解をしなくてはいけないだろうと。おそらく、現代的な視点から眺めた作品解釈…

柴田ヨクサル「ハチワンダイバー(1)〜(3)」

「君に届け」とのギャップに泣ける。。

椎名軽穂「君に届け(1)〜(4)」

まずマンガ書評系のブログサイトでの言及数が多いなということに気付き、アマゾンでも存在感を発揮し始め、書店での平積みが増える、という口コミによる人気爆発の典型を見ました。おそらく映像化されるのは時間の問題。 恋愛主軸の展開を繊細な絵で描く、と…