舞城王太郎「獣の樹」



「喜びは鳥になる。悲しみは石になる。悪は木になる。アイウィルテルユーヴェリーヴェリーバァァァァッドシングスアンダーザブランチィズオブマイン。おいで、ナルオトヒコ。」


ナルオの立派なたてがみが、彼が馬の子であるという自覚を失った途端に剥がれ落ちてしまった、その背中の真皮組織の赤い水脹れを想像した。その晩、畏友の焼けただれた背中を夢に見た。彼は、他の人の背中がそうでないのを羨んだ。彼の背中にはかつて何が生えていて、何が焼け落ちてしまったんだろう(と私は想像したんだろう)?たてがみ?羽根?美しい枝だったろうか?それを焼いたのは彼自身であり、彼は自分の醜い背中を首をねじって見つめていた。ナルオは水脹れした自分の背中を全肯定したけれど、そうも健全であるのは困難なことだろう。