小島寛之「天才ガロアの発想力」



エヴァリスト・ガロア生誕200年ということで大型書店の理工フロアではフェアを組んでいて、で化学者と共にその棚の前に立ちどれを読もうかと考えた。結晶理論との関連は薄そうだし中高生向きの本みたいだけど、でも小島さんは数学プロパーじゃない人に対してとてもいい解説をするんですよね。巨匠風の鷹揚さなんだけどこんなこと数学者からじゃなくても聞けるわみたいなふうでもなく、一生懸命解説するも使った比喩表現が幼稚すぎて馬鹿にしてんのかこいつとむしろ反発を買うようなふうでもなく、想定読者のレベルを鑑みず難解な解説をした後で苦しい要約でお茶をにごすふうでもなく、…まあこういうのが多いせいで理工系解説書をあまり読む気になれないのですが、彼は自分がどういう立場で誰に対して書いている文章なのかを常にはっきり意識しておられる。


彼がまず小島を読み、わたしは現代思想1104「ガロアの思考」を読み、串揚げ屋でストローの袋を5角形に折って「回転対称だから!」とか「トポロジカルでもいい?」とかグダグダ言いながら、5角形を辺で繋げていったらもとの位置に戻るかをしこしこ計算していたダメ酔っぱらいを演じたのは早くも2ヶ月前ですか〜、今の子たちって虚数はおろか積分もやらないらしいよ?積分という行為がつくる世界観を持たないってどんななのか想像つかない。


現代思想でわが畏友が「月並み」だと称していたが、2次方程式の解の公式からはじめる解説をこの本も採用している。ただの利便性というか因数分解がうまくできない場合の逃げ道的な解の公式を、新しい拡張への足掛かりとしてとらえさせる、というこちらの教え方のほうを、本当なら普通教育としてやったほうがいいのに。
積分もそうだが、自然科学の計算式は、単に道具として存在するだけではなく、世界をとらえるための美しい概念が含まれている。それを知ったときの爆発的な世界の拡張を体験せずに生きるのは、あまり豊かだという感じがしない。