アビ・ヴァールブルク「蛇儀礼(クロイツリンゲン講演)」

Aby Warburg「Images from the Region of the Pueblo Indians of North America」


アガンベンをよく読むのだが、イコノグラフィー的な領域に突入すると引用元として頻出するのがヴァールブルクだ。Warburg Instituteで研究していたのが一因なのだが。いつかどれか著作を読もうと思っていたところ偶然見かけたのが「蛇儀礼」で、しょっぱなから何てニッチな選択をしてしまったんだ、とは後の祭りだが、よくよく調べると彼の著作は気軽に読めそうな邦訳ってこれくらいしかない。
解説にある彼の生涯が興味深い。裕福な銀行家の家に生まれるも跡継を拒み、代わりに手にした資金で図書を収集し研究所を設立する。ユダヤ人だったために、大戦中は図書の場所を移動しつつ研究所を存続させていた。精神病にかかりビンスヴァンガーの病院に入院したが、退院にあたり自らの回復を証明するために医師たちの前で講演を行った、これがクロイツリンゲン講演であり本書の内容だ。
という訳でまず圧倒的に伝記が面白そうなので、元Warburg Institute所長ゴンブリッチの「アビ・ヴァールブルク伝」を読みたい本リストの上位陣に加えようと思うのだが、ふらりと立ち寄った書店なり本屋なりで「美術の物語」以外のゴンブリッチに出会える確率ってどれくらいあるんでしょう。


蛇は、いったいこの世界においてなぜ根源的な破壊と死が、そして苦しみが起きるのか、という問いに対するまさにさまざまな地域にまたがる返答のシンボルなのです。キリスト論の考え方が、苦痛と救済の総体を蛇のシンボルで表現するために、キリスト教以前の異教の蛇の形象言語を使っているさまを、私たちはリューディングヴォルト村の例で見てきました。人間の絶え間ない苦しみが救済を求めるところには、蛇は、因果関係を説明するイメージとして手近なものなのです。蛇こそは、「かのように」の哲学の中で一章を割かれるべきでしょう。(p.89)