2008-01-01から1年間の記事一覧

谷川史子「積極ー愛のうた」

息抜きにコミックです。川上弘美「センセイの鞄」とか栃折久美子「森有正先生のこと」とか思い出した。

ジョルジョ・アガンベン「中味のない人間」

著者が28歳のとき出版された論考集。(ってドク論みたいなもんだよなあ。スゴイ。)美学・芸術論がメインで、ニーチェ全般、ヘーゲルの美学講義、ニコマコス倫理学あたりのレファレンスが多いだろうか。さまざまな問題意識が植え付けられた、というレベルの…

ジョルジョ・アガンベン「開かれー人間と動物」

この本は、アガンベンの政治哲学、特に生権力に関して彼が述べるときにその基礎とする、人間の身体と生そのものをめぐる議論の一部です。「剥き出しの生」を、人間から動物にまで思考の範囲を広げて考察し、位置付ける。主にハイデガーを用いての論証。以下…

サミュエル・ベケット「ゴドーを待ちながら」

戯曲。ニ幕構成の劇。 第一幕では夕暮れ時一本の木の下で、ゴドーを待つ2人の男(エストラゴン・ヴラジーミル)、2人の通行人(ポッツォ・ラッキー)、ゴドーが今日は来ないことを告げる1人の男の子、が登場し会話を交わす。第ニ幕では翌日の夕暮れ時…以…

梨木香歩「家守綺譚」

村田エフェンディの友人である青年が、自分が住み込み管理する古い家に起こる奇妙なことどもを短文にて書き連ねた小説。以前、梨木の「沼地のある森を抜けて」を読んだときにうっとおしいと感じた、理屈っぽい側面が完全に払拭されている。理解を超えること…

梨木香歩「村田エフェンディ滞土録」

時代設定は明治期、村田青年が留学先のトルコで遭遇した出来事を描いた短篇連作小説。 明らかに異なるバックグラウンドを持つ者同士が、好ましい距離感を保ちながら関係を続けていくのが、読んでいてすがすがしい。実際いまこの時代であっても、外国人同士な…

ジル・ドゥルーズ「記号と事件1972-1990年の対話」

原題は「折衝Pourparlers」。精神科医フェリックス・ガタリとの共著「アンチ・オイディプス」を出版して以降に、彼が発した談話のテクストをまとめたもの。訳者あとがきによると、彼は本来は対談は好まないらしいが、主に新刊書イヴェントの際に否応でもメデ…

菅野文「オトメン(1)〜(2)」

乙女のココロを持つ、文武両道な男の子の話。あらためて見ると、表紙の絵が衝撃的すぎ。 いま「記号と事件」読んでて幕間なんですが、私うまくドゥルーズ頭に…戻れるんでしょうか…?

ジル・ドゥルーズ、サミュエル・ベケット「消尽したもの」

ペドロ・コスタという名のポルトガルの映画監督が発表した「コロッサル・ユース」という作品は、とても不思議な画面を持っている。カメラが殆ど動かず、背景は静止画像のままでその中を人物が横切る。しかもその背景ですら、念入りに遠近感を排除させてトリ…

ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」

仕事量が警戒水域に達してたのから脱しました…で使いすぎて痺れる頭で合間合間に読んでたのが「ロリータ」、なかなか駆動力のある書物で嬉しい。 「ロリコン」の語源として名を馳せててその通り、語り手ハンバートの恋焦がれた相手が少女であったために困難…

ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」

茫漠とした日常の中でもごくささやかなことが案外、死を選ぶということの動機を軽減させ得ているものだ。ヴァージニア・ウルフが一度は試みに書いたという、ダロウェイ夫人の自殺は、彼女の意識が自在に物語の中に溢れ出すことで、思いとどまらされたに違い…

西尾維新「不気味で素朴な囲われた世界」

最近おカタい本ばっかり読みすぎてたー、ってライトノベル読むとちょっと反省します。 3年前に読んだ「きみとぼくの壊れた世界」と緩くつながってる続編。クソッ、シリーズ化しないだろうと思って選書してたのに。病院坂黒猫ちゃんを再登板させたのがせめて…

ベルンハルト・シュリンク「朗読者」

友人と書店に行って推薦してもらいました。今まで勝手に彼に倣ってコレットと梨木香歩を読んでるのですが、気質が違いすぎるのかうまいこと本の世界に入り込めなかったんだけど、ようやくオーケイな接点を見つけたよ。 主人公ミヒャエルは少年時代に、年長の…

P・D・ジェイムズ「女には向かない職業」

中学生の時の初読以来もう何回も何回も読んでるミステリだけど、今回はじめて、自分が何故コーデリア・グレイに親近感を抱いてきたのか判った気がした。彼女の持つ孤独さが、私のそれと似ているからだ。自分の考えていることと自分の言動との差がひらけばひ…

シェンキェーヴィチ「クオ・ワディス(下)」

創造的な拷問というのが存在するのだ。以前に舞城くんが「煙か土か喰い物」で、奈津川次郎が少年時代におこなう凄まじい虐めを「創造的、芸術的」と表現していたのを思い出す。犬の×××を口で×××して食いちぎって飲み込ませるの??エエエ???私も何か残虐…

シェンキェーヴィチ「クオ・ワディス(中)」

皇帝ネロの時代のローマ歴史小説。 恋愛小説の体裁で物語が進行するけど、まだ普及しはじめたばかりのキリスト教と、アポローンを賛美する思想とが、きれいに対比して描かれててそれが面白い。ジジェクを読んだ後だと、というより信仰と距離をとったフロイト…

シェンキェーヴィチ「クオ・ワディス(上)」

その人のことが知りたくて、その人の読んでる本を読む、ということがしばしばあるけどそれです。

田村隆一「帰ってきた旅人」

… ぼくの墓碑銘はきまった 「ぼくの生涯は美しかった」 と鳥語で森の中の石に彫る … 人間の悲惨という輝かしき存在もどこを探したっていない、老いた赤ん坊が 母胎からポトリと落ちて消耗するだけ

田村隆一「1999」

旅先の図書館で詩を読む。それぞれ別の図書館で。

スラヴォイ・ジジェク「ラカンはこう読め!」

ラカン関連の本を読んでいて曖昧に理解してた箇所がいくぶんすっきりした。ラカン入門書・紹介書というよりは、サブテキストとしていい本だなという印象。 ラカン理論のわかりにくい概念「象徴界・想像界・現実界」をとてもうまく表現していてまずそれが嬉し…

J・M・クッツェー「少年時代」

南アフリカのノーベル賞作家クッツェーの自伝的小説。彼の他の小説は舞台が南アフリカ内であっても不思議と南アフリカの物語を読んでいるという気にさせなくて、立ち戻る先は常に普遍だった。けどこの物語ではさすがにアフリカーナーもカラードも、農場も狩…

ウラジーミル・ナボコフ「透明な対象」

やばい。超いいですナボコフ。 翻訳に対して彼がすごく口やかましかったのも理解できる。暗喩に満ちてて多分そのごく一部だけしか私は気付いてないんだろうけど、それに気付いた瞬間自分の口からウヒっていうシニカルな笑いがマジで漏れたのが可笑しい。それ…

デイヴィッド・スタウト「カロライナの殺人者」

アメリカ探偵作家倶楽部最優秀処女長編賞受賞作。初版1988年です。ノンストップ・ミステリでもあるけど非常にジャーナリスティックにアメリカの傷を描いている。 南北戦争直後の南部に起こった白人少女2人の殺人事件の犯人として、14歳の黒人少年が死…

田崎英明「無能な者たちの共同体」

前の日のメモ見ててあー前向き人間て何でもこう捉えちゃうのねー、と嘆息しました。芳しからぬことはすべて正しきことの反動であってしかもそれすら肯定しうる、という。でもそうじゃないでしょ、ってこの本読んだ後自分の文章見て思った。 「空の青み」にお…

ジョルジュ・バタイユ「空の青み」

自分があまりにも健全すぎたり前向きすぎたりするのに辟易すると、バタイユとか。 彼の場合、生への嫌悪感や健全さへの反発が、死への志向や性の乱痴気騒ぎに向かってると思うのだ。本書中の「私」は自分の堕落に女性を巻き込みたがるし同類を求めているし、…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート「マルチチュード(下)」

先週末に開催されたシンポジウム「新たなるコモンウェルスを求めて」に行ったよ。ネグリさんは電話対話のみで、登壇者は姜尚中・上野千鶴子・鵜飼哲・石田英敬。この4者だと圧倒的に上野さんに敬意を払う雰囲気になるようで、しかし彼女はさほどネグリに詳…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート「マルチチュード(上)」

ネグリが来日できないことになった。彼がイタリアで実刑判決を受けていたことが、公安上嫌われたらしい。皮肉なものだ、マルチチュードの自由な移動が、<帝国>によって一時撤退を余儀なくされたとは。彼の来日はおそらく「延期」なのだろう、さもなくば彼…

ジョルジョ・アガンベン「アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人」

アウシュビッツ収容所の生存者による証言について書いた本。 アウシュビッツの大量虐殺が神聖化されることを彼は非常に危惧してて、彼は、「ホロコースト:丸焼きの犠牲」「ショアー:神の罰による壊滅」という言い方を採用しないことに決める。つまり、そこ…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート「<帝国>」

本文だけで500ページ、厚さ4cmの大著!第一部で公安・警察・国家、第二部でポストコロニアリズム・ポストモダニズム、第三部で政治・経済、それぞれについて<帝国>を考察し、第四部で結という構成だ。第一部と第二部が最近読んでる分野と地続きになってた…

中沢新一「ゲーテの耳」

軽い。軽やかです。 中沢新一は少なくともこの本では、西洋哲学を思考のツールとして用いていない。「アースダイバー」でもそうだった気がする。例えばエリアーデも中沢と同じくインド地域の宗教を研究しているけど、彼は、マルクスやヘーゲル等の西洋哲学を…