斉藤環「生き延びるためのラカン」



読んでてニヤニヤ笑いがとまりませんでした。
パンチラとか腐女子とかのネタ、あるいはユングフロイトのゴシップ、あるいは中井久夫ジジェクへの言及、等どんな人でも必ず何かには興味ひかれるだろうという動機づけがちりばめられていて、とにかく何としてでもシロウトをラカン思想に引っ張ってこようという貪欲さを感じられて良いです。中高生でもラカンのエッセンスを理解できるようにするために、いわば新書向き、啓蒙書とかエッセーの類のような体裁をとっていて、そのための多少の誤謬はありそうなんだが、なんだかもうとにかくおもしろいことになってます。
知り合いが精神科にかかったときに、「現在は統合失調症精神分裂病)の治療法については、主にクスリヅケ(薬物療法)が行われているらしい」というのが彼の周囲の人たちの間で話題になった。それを聞いたときの反応は、みな一様にガッカリ。なんだカウンセリングで治癒するんじゃないんだ、という。やっぱりそれを期待するものなんだね、精神を化学的な反応に還元するような思想にはやっぱり落胆してしまうのだ。ただそんな反応を目にしながらも私は、いや体内分泌物のアンバランスが原因で生じているような精神病についてなら薬物療法はかなり有効なんじゃない、と思ったものだった。でもううん、…普通の怪我の治癒過程と同じように、薬物はやはり補助的なものにしかならなくて、結局は患者自身の疾患を治癒する力というのを信じるしかないんだろうよ…そのためには、詳細なカウンセリングと的確な分析、患者のランガージュを補正する補助としての治療は本質的な解決に結びつきやすいのだろうな。