P.D.ジェイムズ「女には向かない職業」
再読率ナンバーワンの本だ。初読時はたしか中学生だった当時の私にとってはコーデリア・グレイは大人の女性だったのだが、いつの間にか年齢を追い抜いていた。わたしが小説の主人公に共感できるという極めて稀な例だ。若くて可憐、怜悧でタフ、倫理的で革命思考。
ジャンルとしては骨太な本格ミステリなのだが、読む都度いろいろな思考を促されるのも、何度も読み返してしまう一因だ。今回はコーデリアの服喪のストーリーとして読んだ。
小説の冒頭で、彼女の探偵事務所のシニアパートナーである男性(バーニー・プライド)が自殺する。彼女はその直後に得た仕事において、彼の教えを反芻しながら事件の真相を突き止める。小説の最後で、彼女は故バーニーの尊敬する上司(ダルグリッシュ警視)に、彼の存在や能力を思い出させることになったのだった。彼を警察組織から解雇した張本人であり葬儀にすら出席しなかった上司に。
服喪という考えの前提には明らかにアンチゴネーがいる。いかなる死も正確な喪に伏されなければならないのだ。コーデリアの服喪は、きわめて強調されたバーニーの人生の不幸、これを救済することに成功した暁に成就されたと見ていい。ごく時折露呈される彼女のバルネラビリティは、喪の作業の過程で生じる、死の共同意識なのだ。