classics

W.G.ゼーバルト「目眩まし」

Winfried Georg Sebald「Vertigo (Schwindel. Gefühle.)」 ・ベール あるいは愛の面妖なことども ・異国へ(アレステロ) ・ドクター・Kのリーヴァ湯治旅 ・帰郷(イル・リトルノ・イン・パトリア) 以上の4篇を収録してある。アンリ・ベールとは作家スタン…

W.G.ゼーバルト「移民たち」

Winfried Georg Sebald「The Emigrants」 才気煥発と自分の考えをまくしたてる訳でもないし、派手でわかりやすい業績をあげた訳でもない。それでもなぜか友人たちの間で、その発言にとりわけ重きをおかれるような人がいる。ゼーバルト「アウステルリッツ」を…

ラビンドラナート・タゴール「ギタンジャリ」

Rabindranath Tagore「GITANJALI」 17 わたしは ひたすら愛する人を待っている──ついには その手に この身をゆだねるために。そのために こんなにも遅くなり、こんなにも怠惰の罪を犯してしまったのです。 人々は 規則や掟をもって来て わたしをがんじがらめ…

舞城王太郎「スクールアタック・シンドローム」

「スクールアタック・シンドローム」 俺(語り手)の部屋に闖入した辻宰司は俺に耳を喰いちぎられ、俺を恐れつつも俺に怒っていたからその怒りを、他のもっと弱い奴の耳を喰いちぎることで晴らしていった。多摩川河川敷にいた野球少年たちが犠牲者として巻き…

フラナリー・オコナー「烈しく攻むる者はこれを奪う」

Flannery O'connor「The Violent Bear It Away」 マタイ伝11章12節「バプテストのヨハネの時より、今に至るまで、天国は烈しく攻めらる。烈しく攻むる者は、これを奪う。」 ターウォーター少年の大伯父が亡くなった。少年と老人は町を離れ、森の中の開墾地で…

フラナリー・オコナー、サリー・フィッツジェラルド編「存在することの習慣」

Flannery O’Connor, Sally Fitzgerald「The Habit of Being」 フラナリー・オコナーの書簡集。フィッツジェラルド夫妻は、彼女が小説を発表する前にはほぼ必ず、事前に草稿を送り意見を仰いでいた、大切な友人だった。サリーは批評家であり、夫ロバートも文…

フラナリー・オコナー、サリー・フィッツジェラルド、ロバート・フィッツジェラルド編「秘義と習俗」

Flannery O'Connor, Sally Fitzgerald, Robert Fitzgerald「Mystery and Manners」 「……われわれのほとんどは、悪に関しては冷静に正面から見据えて、たいがいはそこにわれわれ自身のにやりとした映像を発見し、しかもその像をを素直に受けいれるやり方を心…

フランツ・カフカ「失踪者(アメリカ)」

カフカの三長編のうちの一つで、やはり未完。「城」「訴訟」では奇妙な法律/掟として描かれていたものが、「失踪者」では新興国アメリカの価値観(例えば良心より狡猾さ)として描かれている。

フランツ・カフカ「訴訟(審判)」

ある朝突然、悪事をはたらいたおぼえがないのに、ヨーゼフ・Kは逮捕された。それから1年後、31歳の誕生日の前夜、ヨーゼフ・Kは処刑された。 カフカ「訴訟」では、Kがこの1年間に囚われ続けた訴訟沙汰について、彼の生活に起こった事件についてとりまとめら…

フランツ・カフカ「城」

この冬ではじめての雪が降っている。夜が明けたら、降り止んだ雪のまぶしさで、窓の外が白んでいたらいい。 幼い頃、夜から雪が降り続いていた翌朝、雪の降りつもった明け方は、すべてのものの距離が消え失せていた。あまりの静かさは不気味すぎて、いったん…

セルマ・ラーゲルレーヴ「ポルトガリヤの皇帝さん」

Selma Lagerlöf「The Emperor of Portugalia」 自分の読書の趣味に凝り固まるのも何なので、人の薦めてくれるままの本を読むことがときどきある、ラーゲルレーヴはその一つだ。「ニルスのふしぎな旅」の著者で、女性初のノーベル文学賞受賞者。岩波文庫収録…

フランツ・カフカ「カフカ短篇集」

ドゥルーズ+ガタリもロベールも、あまりに「判決」に言及するので、短篇を洗い直し。 カフカはアフォリズムをわかりやすい形で示すから、他のいろいろな小説が孕んでいた謎を明示してくれる。たとえば、「中年のひとり者ブルームフェルト」では、文学作品で…

エウリピデス「エレクトラ」

数年前に新国立劇場で「アルゴス坂の白い家」という劇を見た。その劇は「オレステイア」三部作のパロディで、クリュタイメストラとエレクトラの関係を中心にして描かれていた。エレクトラにあたる役柄を小島聖が演じていて、近親相姦的に父親を愛し、肉親で…

ソポクレス「エレクトラ」

アイスキュロス・ソポクレス・エウリピデスのギリシア三大悲劇作家が、同じテーマを扱って描いた戯曲では、「エレクトラ」が現存する唯一の作品らしい(原典はオデュッセイア)。 ソポクレスの描き方はかなり理性的。自らの夫を殺した母に対して復讐を遂げる…

サミュエル・ベケット「名づけえぬもの」

Samuel Beckett「The Unnamable」 ……おれがいま言っていることや、できればこれから言うだろうことは、もうなくなったことか、まだないことか、一度もなかったことか、絶対にないだろうことで、もしあったにしても、もしあるにしても、もしあるだろうにして…

フランツ・カフカ「断食芸人 四つの物語」

雑賀恵子さんのことが個人的に気になってます。空腹と食に関する本を読もうとしてて、その下準備みたいなノリで読んだんだけど。あまりにもカフカが凄まじく、むかし読んだのとは全く違う仕方でわたしは打ちのめされた。 「断食芸人」はカフカ最晩年の短篇で…

アイスキュロス「ギリシア悲劇(1)」

オレステイア三部作収録。 第一部では、戦場から帰還したアガメムノン王が、王妃クリュタイメストラと情夫アイギストスに殺害される。アイギストスはアガメムノンの家系にもともと恨みがあって、というのは彼の父親は、アガメムノンの父王の策略により、食卓…

ケルテース・イムレ「運命ではなく」

Imre Kertesz「Sorstalansag」 ただ与えられた状況があるだけだし、その中にさらに新たな状況があるだけだ、……僕も与えられた僕の運命を最後まで生きた。僕の運命じゃなかったけれど、僕は最後まで生きたのだ。……もしすべてが運命でしかないなら、自由などあ…

吉増剛造「花火の家の入口で」

幼年のわたしがさくらを見た日。その日わたしは老衰 した。庭にひびいた紙笛の散る里、……わたしはわた しの人生を思い出す。(時は、少しも、足りなくなか った。百年がたち、百五十年がたっ、た、……。)

マリー・ンディアイ「みんな友だち」

Marie NDiaye「Tous mes amis」 ある一般的な感情、社会現象的に蔓延するような意識、それはほとんど症候と名付けてもいいと思うけれど、それに対して治療を施すような形で供給される物語があると思う。 「泣ける物語」は、需要と供給との間にとてもいい関係…

舞城王太郎「好き好き大好き超愛してる。」

「愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に…

サミュエル・ベケット「マロウンは死ぬ」

Samuel Beckett「Malone Dies」 「とうとうもうじきわたしは完全に死ぬだろう、結局のところ。」 ある男が個室のベッドに伏している。身体が不具でわずかに手しか動かない。彼は自分がどうしてここにいるのかが定かではない。なにか乗り物で運ばれてきたよう…

マリー・ンディアイ「心ふさがれて」

Marie NDiaye「Mon cœur a l'etroit」 昨夜、東京日仏学院で、マリー・ンディアイ/笠間直穂子(この本の翻訳者)/ミカエル・フォリエの鼎談をきいた。彼女はセネガルとフランスの混血で、フランスの片田舎に育ち今はベルリンに住んでいる。アフリカ系特有…

ブルーノ・シュルツ「シュルツ全小説」

Bruno Schulz もしシュルツ自身が狂人ではなかったとしたなら、彼のこの偏執狂的な想像力をどう扱ったらいいんだろう? 収録されている作品には短篇が多いから移動中読むにはうってつけ、ということで、バスを待つ間ゴハンを待つ間メトロに乗ってる間、とぎ…

フェルナンド・ペソア「ペソア詩集」

Fernando Pessoa ぼくはなにであったのか 自分を見出したとき ・・・・・・・・・・・・・・Fernando Pessoa ぼくはすでに失われていた ぼくは苛立ってぼくの許を去った 否定されたことになお固執する 狂人の許を去るごとく わたしが死んでから 伝記を書くひ…

舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日(上)(下)」

ふはははははははははは!ガッデムディスコシット。みたいな不敵な元気さが舞城くんに戻ってきて、超よろこばしい限りです。「新潮」での連載が終わってからもう1年以上でしょ待ったよ〜と思ったら下巻まるごと書き下ろし。迷子探し専門の米国人探偵・Disco…

サミュエル・ベケット「モロイ」

小説。ニ部構成で一人称語り。 第一部はモロイの独白が改行無しで延々100ページ以上続く。第二部はモロイの元に向かう調査員モランについて。 第一部と第二部が、偶然にしては過ぎるくらいに、彼らの行動や思想やその場所に関して類似性を持つに至る。彼らは…

サミュエル・ベケット「ゴドーを待ちながら」

戯曲。ニ幕構成の劇。 第一幕では夕暮れ時一本の木の下で、ゴドーを待つ2人の男(エストラゴン・ヴラジーミル)、2人の通行人(ポッツォ・ラッキー)、ゴドーが今日は来ないことを告げる1人の男の子、が登場し会話を交わす。第ニ幕では翌日の夕暮れ時…以…

ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」

仕事量が警戒水域に達してたのから脱しました…で使いすぎて痺れる頭で合間合間に読んでたのが「ロリータ」、なかなか駆動力のある書物で嬉しい。 「ロリコン」の語源として名を馳せててその通り、語り手ハンバートの恋焦がれた相手が少女であったために困難…

ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」

茫漠とした日常の中でもごくささやかなことが案外、死を選ぶということの動機を軽減させ得ているものだ。ヴァージニア・ウルフが一度は試みに書いたという、ダロウェイ夫人の自殺は、彼女の意識が自在に物語の中に溢れ出すことで、思いとどまらされたに違い…