classics

ベルンハルト・シュリンク「朗読者」

友人と書店に行って推薦してもらいました。今まで勝手に彼に倣ってコレットと梨木香歩を読んでるのですが、気質が違いすぎるのかうまいこと本の世界に入り込めなかったんだけど、ようやくオーケイな接点を見つけたよ。 主人公ミヒャエルは少年時代に、年長の…

シェンキェーヴィチ「クオ・ワディス(下)」

創造的な拷問というのが存在するのだ。以前に舞城くんが「煙か土か喰い物」で、奈津川次郎が少年時代におこなう凄まじい虐めを「創造的、芸術的」と表現していたのを思い出す。犬の×××を口で×××して食いちぎって飲み込ませるの??エエエ???私も何か残虐…

シェンキェーヴィチ「クオ・ワディス(中)」

皇帝ネロの時代のローマ歴史小説。 恋愛小説の体裁で物語が進行するけど、まだ普及しはじめたばかりのキリスト教と、アポローンを賛美する思想とが、きれいに対比して描かれててそれが面白い。ジジェクを読んだ後だと、というより信仰と距離をとったフロイト…

シェンキェーヴィチ「クオ・ワディス(上)」

その人のことが知りたくて、その人の読んでる本を読む、ということがしばしばあるけどそれです。

田村隆一「帰ってきた旅人」

… ぼくの墓碑銘はきまった 「ぼくの生涯は美しかった」 と鳥語で森の中の石に彫る … 人間の悲惨という輝かしき存在もどこを探したっていない、老いた赤ん坊が 母胎からポトリと落ちて消耗するだけ

田村隆一「1999」

旅先の図書館で詩を読む。それぞれ別の図書館で。

J・M・クッツェー「少年時代」

南アフリカのノーベル賞作家クッツェーの自伝的小説。彼の他の小説は舞台が南アフリカ内であっても不思議と南アフリカの物語を読んでいるという気にさせなくて、立ち戻る先は常に普遍だった。けどこの物語ではさすがにアフリカーナーもカラードも、農場も狩…

ウラジーミル・ナボコフ「透明な対象」

やばい。超いいですナボコフ。 翻訳に対して彼がすごく口やかましかったのも理解できる。暗喩に満ちてて多分そのごく一部だけしか私は気付いてないんだろうけど、それに気付いた瞬間自分の口からウヒっていうシニカルな笑いがマジで漏れたのが可笑しい。それ…

ジョルジュ・バタイユ「空の青み」

自分があまりにも健全すぎたり前向きすぎたりするのに辟易すると、バタイユとか。 彼の場合、生への嫌悪感や健全さへの反発が、死への志向や性の乱痴気騒ぎに向かってると思うのだ。本書中の「私」は自分の堕落に女性を巻き込みたがるし同類を求めているし、…

フラナリー・オコナー「フラナリー・オコナー全短篇(下)」

短篇集(上)は「A Good Man Is Hard to Find」を中心に、信仰の不在をモティーフとした作品が集められていたけど、(下)は「Everything That Rises Must Converge」を中心に、自意識の崩壊を扱ったものが多い。 「すべて上昇するものは一点に集まる」は、…

フラナリー・オコナー「フラナリー・オコナー全短篇(上)」

今までずっと、オコナーが描いていることをうまく言語化できないでいたんだけど、彼女を読みとく手がかりを、意外にもエリアーデが与えてくれた。彼女は、信仰を持つことのできないキリスト教徒とその神を描いているんだ。 エリアーデの定義する「信仰」はた…

コレット「シェリの最後」

若く美しく傲慢な男シェリと、老いた美しい高級娼婦レアの、愛の日々とシェリの結婚による別れを描いたのが「シェリ」。これはその続編で、シェリがその後戦争から帰還して過ごす、無為な日々の記録です。 シェリは時にレアを「ヌヌーン」と呼ぶんだけどこれ…

コレット「シェリ」

私は健全すぎるのかもしれない。登場人物の49歳の高級娼婦、姿の美しい人という設定なのだが、老いを嘆くにもかかわらず、衣装で皮膚のたるみをごまかしたり、長年の手練手管で若い男をやりこめたりしてて。老いるのが怖いなら身体を鍛え食事に気を使えっ…

J・M・クッツェー「マイケル・K」

鴻巣友季子さんの翻訳によるクッツェーは、一人称で行われる思考の成り行きを、言葉を次いでいくままに訳しおろすような体裁にしていて、その独特の癖がわたし好みだった。「夷狄を待ちながら」は彼女の訳ではなかった。文の流れがやや滞留気味なのが気に障…

J・M・クッツェー「夷狄を待ちながら」

国際交流基金による招聘でクッツェーが先週から来日していて、今日、新作「Diary of a Bad Year」の本人による朗読を聞きに行った。彼は長身で、赤い顔と、「snow-capped」としか言いようのない見事な白髪を持ち、聴衆というものに対して(数々の講演を行っ…

大江健三郎「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」

エドガー・アラン・ポーの詩「アナベル・リィ」をモティーフにした小説。日夏耿之介訳でときどき引用が挿入されている。ノーベル賞受賞作家や彼の映画監督の義兄や障害のある息子が出てきますが勿論私小説ではない。タイプとしては「人生の親戚」とか「もう…

ミルチャ・エリアーデ「マイトレイ」

20世紀を代表する宗教学者・エリアーデの自伝的恋愛小説。彼がインドで学問を修めたときの師の娘マイトレイとの恋愛とその破滅を描いたストーリー。若々しい自意識のみなぎるエリアーデの、インド娘に対する偏見や憧れが溢れている。人が恋に落ちるまでのそ…

ミルチャ・エリアーデ「令嬢クリスティナ」

エリアーデはルーマニアの宗教学者。エリアーデという名前はたびたび聞くので、黙殺することのできない存在なんだと思う多分。と言うか、わたしはそもそも現役の学者の著作を読むのが好きで、で中沢新一みたいな現役の宗教学者がふっと思いついてレファレン…

J・M・クッツェー「恥辱」

良いです。近年読んだ小説の中では、フラナリー・オコナーの短編以来かも。良いのか悪いのか彼女よりも読後感を言語化しやすいし。 初老の大学教員ラウリーが教え子と関係を持ったことを告発され役職を追われ、都落ちして、自分の娘がひとりで暮らす農園に同…

ガルシーア・ロルカ「ロルカ詩集 (世界現代詩文庫)」

わたしの窓から 頭を出して、わたしは知る 風の刃が どんなに頭を切り落としたがっているかを。 眼には見えない この断頭台に、わたしは載せた わたしのあらゆる欲望の 盲いた頭を。 …… ぼくがどんなにお前を愛しているか お前には決してわからないだろう な…

J・M・クッツェー「エリザベス・コステロ」

エリザベス・コステロという女性作家が、自分の職業についてその目的や倫理観などを考える遍歴を描いたフィクション。 何らかの結論に辿り着くように書かれる論述よりも小説的で、登場人物の行為によって彼らの考えを読者が推測せねばならない小説よりも論述…

ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ(4)」

何をここにメモしておいたらいいのか、むつかしい…。 ひとまず思ったのは、パスティーシュや文体の戯れが非常に多いから、日本語訳には翻訳者の意図が多分に含まれているという了解をしなくてはいけないだろうと。おそらく、現代的な視点から眺めた作品解釈…

夏目漱石「こころ」

罪意識を背負って生き最後に自殺した「先生」の、回想と遺書。でも暗鬱でねっちりとした場面は殆どなく、さくさくさくと短時間で読み切れる。 彼は遺書によって自らの罪を「私」に告白するのだが、自殺しようと決めたから告白を書いたのではなく、告白せずに…

ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ(3)」

妄想爆発しててある意味読みやすい。なんでこうも内省的なのか。

ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ(2)」

(1)はとりあえず注釈見ずで、いわゆる「意識の流れ」てのに揺られるがまま読んでいたのだけど、(2)に至って注釈見ても気が逸れなくなった。おもしろいなぁ。現代文学が読める、と感じられるようになってきた今だからこそ、この近代文学の金字塔、冴えない中…

ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ(1)」

おもしろいです。びっくり。 この新訳ユリシーズが出版されたとき、当時入学したばかりの大学の生協で単行本がバカ売れしてて(?少なくともフェアをやっていた)パラ読みはしたけど、よくわかんないって印象しかなかった。が、エー、このたび、旧い友人(し…

フラナリー・オコナー「賢い血」

偏狭なキリスト教説教師と彼を巡るひとびとの話。 大江健三郎がオコナーを好きなのが腑に落ちた。哀れまれるべき貧困層の滑稽さや、挙動の愚かさが淡々と語られていて、彼らを支配している因果律を読み取ることはとても困難で。救済を求めることに対して誠実…

町田康「告白」

明治二十六年に実際に起こり後に河内音頭になった惨殺事件「河内十人斬り」の、首謀者の内省を描いた作品です。 わたしの個人的な好みによく合っています。おほほん・わっぴゃぴゃんという擬音擬態語で文に弾みを生むのとか、ドナドナのように…などと時制の…

町田康「浄土」

「東京飄然」とか書店でパラ読みしたりしてて、あ結構おもしろい作家だと気付いてたのに、辻仁成を読む気がしないのと同じ理由で読まずに来たことを恥ずかしく思いますと告解しておく。スミマセン。 「浄土」には7つの短編がおさめられていて、良い順に「犬…

G・ガルシア=マルケス「百年の孤独」

1999年翻訳版で読みました。これはおもしろいです。古事記とか太平記とか平家物語とかの類いの、一族の盛衰・大きな物語が描かれた小説ですが、小説全体の構造が円環をなしていて、読了と共に小説世界までもが一陣の嵐を巻き起こして消失します。いろいろ不…