町田康「告白」



明治二十六年に実際に起こり後に河内音頭になった惨殺事件「河内十人斬り」の、首謀者の内省を描いた作品です。
わたしの個人的な好みによく合っています。おほほん・わっぴゃぴゃんという擬音擬態語で文に弾みを生むのとか、ドナドナのように…などと時制の一致しない比喩を使って作品世界から読者を突き放すのとか、…であるのである、みたいな飄々とした文体とか。
俺は思弁的すぎる、考えたことをそのまま発声できない、と発露を失われた自我が最後には暴発し、抑圧した人々を虐殺するのですが、おそらくその時までには抑圧されることそのものが自らの怒りの確認手段でもあったようで、彼らを虐殺することによって抑圧から解放されたときに得られたのは、自我の解放ではなく崩壊であったのだと思います。
最後に彼はほんとうのことを告げて自害します。「万延元年のフットボール」みたいですね。