2009-01-01から1年間の記事一覧

杉浦勉「霊と女たち」

スピリチュアルなんて言うといかんせん胡散臭いし、フェミニズムなんてのもついつい敬遠してしまう。それなのにこの「霊と女たち」、書店帰りに立ち寄った日曜のSTARBUCKS COFFEEで、ワンシッティングで読了してしまった。面白いなあ。異端審問とか伝奇とか…

ジャン・ボードリヤール「完全犯罪」

Jean Baudrillard「The Perfect Crime」 この本をわたしに薦めた友人は、ほとんど推理小説を読まないのらしい。そんな彼に推理小説を1冊薦め感想をきいたところ、思いもよらない返答があった。ミステリの原則である、一番重要なことを最後の最後まで隠蔽して…

ドリス・レッシング「破壊者ベンの誕生」

Doris Lessing「The Fifth Child」 ドリス・レッシングは2007年のノーベル文学賞受賞者だが、純文学らしからぬ装幀にひかれて読むことにした。 時代遅れの感性をもつカップルが、ロンドン郊外の分不相応に大きな家で、あたたかい大家族をつくりあげることを…

川上弘美「溺レる」

川上弘美は、書かれたものについて、とても繊細だ。 これは短篇集だが、すべての短篇について、登場人物の名前をわざわざカタカナ表記にしているのが、それに気付くきっかけになった。とりあえずはカタカナ表記は異質に見えて、文章のなかで人物が際立つとと…

川上弘美「パレード」

「センセイの鞄」のツキコさんとセンセイが、畳にねそべりながらよしなきことを語る。ふたりとも淡々としているけど、一緒にいるここちよさ、息のあった掛け合い、羨ましいくらいだ。改めて思う、人と人との関係を説明するのに、恋愛か友情かなんて、そんな…

クロード・レヴィ=ストロース「野生の思考」

Claude Lévi-Strauss「The Savage Mind」 フランス語の原題は「La pensée sauvage」、penséeは草花のパンジーと思惟思考の両方を意味するのだそうだ。この本がはじめて出版された1962年当時はまだ、オーストラリアやアメリカの先住民族に対する視線には偏見…

田中純「都市の詩学」

暗闇でつぶやくように喋る声と、スクリーンに投映されるいくつものイメージ。今はもう取り壊された大学図書館の講堂で、結局、学期の最後まで講義に通いつづけた数人の中に、私は含まれていた。期末評定の対策を質問してきた見知らぬ受講仲間に答えたとおり…

乙一「失はれる物語」

せつなさと優しさに満ちた短篇集。短く要約すると何故か陳腐になってしまうので、内容紹介できないのが残念。 既読のかたへ、彼女は彼にモールス信号を教えるべきだったと思いませんか? 文庫版は以下8編。 ・Calling You(映画「きみにしか聞こえない」原作…

ロビンドロナト・タゴール「迷い鳥」

Rabindranath Tagore「Stray Birds」 夏の迷い鳥が、わたしの窓にきて、うたをうたい、飛び立つ。 そして、秋の黄ばんだ木の葉が、うたうでもなく、吐息まじりに舞い散る。 Stray birds of summer come to my window to sing and fly away. And yellow leave…

ジル・ドゥルーズ「フーコー」

Gilles Deleuze「Foucault」 読みながら何よりも思ったのは、ドゥルーズはフーコーのことが本当に好きだったんだな、ということ。本文中で何回もドゥルーズはフーコーの論考のそれぞれを「美しい」という主観的なことばで賞賛する。物語でもないし形而上学に…

J.M.クッツェー「敵あるいはフォー」

J.M.Coetzee「FOE」 スーザン・バートンという名の英国人女性が、未開の島地に流れ着く。彼女は、連れ去られた娘を追ってブラジルを捜索したものの手掛かりがつかめず、2年振りの帰国を果たすためにリスボンに向けて航海中だった。ところがその船が乗組員に…

斎藤美奈子「趣味は読書。」

読書ファンは多かれ少なかれベストセラー本を馬鹿にしている。「あるのは知ってるけど、読んでませんよ、そんなもの。」時間と金の無駄でしょう、愚民どもが読んでればいいのよ。書棚にさしといたら恥ずかしいわい。「光に向かって100の花束」「頭がいい人、…

ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ「フェルディドゥルケ」

Witold Gombrowicz「Ferdydurke」 永遠の青二才、か……性格の不一致としか言いようがない。これほど読破に苦労したのは記憶にない。

W.G.ゼーバルト「土星の環」

Winfried Georg Sebald「The Rings of Saturn」 ……私たちは荒寥とした音もないこの八月について話した。何週間も鳥の影ひとつ見えない、for weeks there is not a bird to be seen, とマイケルが言った。なんだか世界ががらんどうになってしまったみたいだ。…

サミュエル・ベケット「伴侶」

Samuel Beckett「Company」 ……同じ闇、あるいは別の闇のなかで、もう一人の人間が、すべてを自分の伴侶として想像する。ちょっと見たところ明白な言葉だ。だが、まじまじ見られるとそれは混乱する。しかも目がまじまじと見れば見るほど、それはよけいに混乱…

サミュエル・ベケット「見ちがい言いちがい」

Samuel Beckett「Ill Seen Ill Said」 もう幻でしかありえない。もう続かない。彼女とその他すべて。すっかり眼を閉じて、彼女を見るだけ。彼女とその他すべて。眼をすっかり閉じ、彼女を死ぬほど見ること。省略なしに。小屋で。砂利土の上で。野原で。霧の…

雑賀恵子「エコ・ロゴス」

……ともかく、人間存在の昏く根源的なところを揺さぶるおぞましさを、近代理性は、徹底的に退け、あるいは明るみのなかに引きずり出して馴化しようとしてきた。したがって、殺人は、刑法の体系のなかに属するが、食人の罪状は刑法には存在しない。自然─動物と…

奥田英朗「町長選挙」

変態精神科医、伊良部を主人公とするシリーズの3作目。4編収録の短篇集。うち、表題作以外の3編は、実在の人物をモデルに充てて描いている。 自分がこの連作に何を求めているのか理解した。最初は伊良部医師を胡散臭そうに見ていた患者が、次第に彼を認め彼…

W.G.ゼーバルト「空襲と文学」

Winfried Georg Sebald「On the Natural History of Destruction : With Essays on Alfred Andersch, Jean Amery, and Peter Weiss」 ・空襲と文学 チューリヒ大学講義より ・悪魔と紺碧の深海のあいだ 作家アルフレード・アンデルシュ ・夜鳥の眼で ジャン…

奥田英朗「空中ブランコ」

「イン・ザ・プール」の続編で、5編収録の短篇集。これも面白い。前作よりもさらに物語のバリエーションが広がっているように見える。 褒めてるんだか貶してるんだか自分でもよく分からなくなってきた。文芸作品に対する私のスタンスは、以下、トヨザキ社長…

W.G.ゼーバルト「目眩まし」

Winfried Georg Sebald「Vertigo (Schwindel. Gefühle.)」 ・ベール あるいは愛の面妖なことども ・異国へ(アレステロ) ・ドクター・Kのリーヴァ湯治旅 ・帰郷(イル・リトルノ・イン・パトリア) 以上の4篇を収録してある。アンリ・ベールとは作家スタン…

奥田英朗「イン・ザ・プール」

変態精神科医・伊良部の診療譚。5編収録の短篇集です。直木賞作家って伊達じゃないんだなと思った。きっちり読ませます。 1話目の表題作「イン・ザ・プール」を読んだ限りでは、あまりにも型にはまったエンタメぶりに辟易するばかりだった。人物造形は類型的…

W.G.ゼーバルト「移民たち」

Winfried Georg Sebald「The Emigrants」 才気煥発と自分の考えをまくしたてる訳でもないし、派手でわかりやすい業績をあげた訳でもない。それでもなぜか友人たちの間で、その発言にとりわけ重きをおかれるような人がいる。ゼーバルト「アウステルリッツ」を…

乙一「小生物語」

11月21日 飴を舐めながら布団で睡眠しました。瞳のことを考えてブルーベリーエキスの入った飴を選びました。目が覚めたとき、いつのまにか飴は口の中から消えているのでした。これまでも何度かこのようなことはありました。そのたびに、溶けてなくなったのだ…

ジル・ドゥルーズ「スピノザ」

Gilles Deleuze「Spinoza : Practical Philosophy」 ドゥルーズは、学位論文「差異と反復」の副論文としてスピノザ論「スピノザと表現の問題」を提出した、というくらいに哲学の出発点をスピノザに負うところが大きかったらしい。「資本主義と分裂症(アンチ…

長嶋有「夕子ちゃんの近道」

日常生活のなかでは、無意味だとしか思えない、停滞している時間が必ずある。 そのとき何をしていたか、ということは意外と大きな意味を持つことになるから、油断ならない。 (というような、何気ない無為な日々をえがいた短篇集です。) 32歳になりました。

ラビンドラナート・タゴール「ギタンジャリ」

Rabindranath Tagore「GITANJALI」 17 わたしは ひたすら愛する人を待っている──ついには その手に この身をゆだねるために。そのために こんなにも遅くなり、こんなにも怠惰の罪を犯してしまったのです。 人々は 規則や掟をもって来て わたしをがんじがらめ…

スティーヴン・キング「ナイトシフト」

Stephen King「Nightshift」 昨晩はモダン・ホラーのおかげでよく眠れた。

舞城王太郎「スクールアタック・シンドローム」

「スクールアタック・シンドローム」 俺(語り手)の部屋に闖入した辻宰司は俺に耳を喰いちぎられ、俺を恐れつつも俺に怒っていたからその怒りを、他のもっと弱い奴の耳を喰いちぎることで晴らしていった。多摩川河川敷にいた野球少年たちが犠牲者として巻き…

Jean Baudrillard「The Spirit of Terrorism」

ジャン・ボードリヤール「パワー・インフェルノ」収録 Sometimes I suddenly notice that there are many diffrent types of people around us even in Tokyo, who have diverse religeon and custom. Today I saw one kosher food outlet nearby have finis…