2009-01-01から1年間の記事一覧

フラナリー・オコナー「烈しく攻むる者はこれを奪う」

Flannery O'connor「The Violent Bear It Away」 マタイ伝11章12節「バプテストのヨハネの時より、今に至るまで、天国は烈しく攻めらる。烈しく攻むる者は、これを奪う。」 ターウォーター少年の大伯父が亡くなった。少年と老人は町を離れ、森の中の開墾地で…

プラトン「国家(下)」

これがどんな本だったのかが、最後まで読んでようやく分かった。 プラトンの「国家」は、かなり美しい形でひとつの論理空間としての「国家」を生み出している。暴論を含むし、現実性に乏しいし、重要な事柄の捨象も激しい。でも、この論が存在する平面上にお…

フラナリー・オコナー、サリー・フィッツジェラルド編「存在することの習慣」

Flannery O’Connor, Sally Fitzgerald「The Habit of Being」 フラナリー・オコナーの書簡集。フィッツジェラルド夫妻は、彼女が小説を発表する前にはほぼ必ず、事前に草稿を送り意見を仰いでいた、大切な友人だった。サリーは批評家であり、夫ロバートも文…

フラナリー・オコナー、サリー・フィッツジェラルド、ロバート・フィッツジェラルド編「秘義と習俗」

Flannery O'Connor, Sally Fitzgerald, Robert Fitzgerald「Mystery and Manners」 「……われわれのほとんどは、悪に関しては冷静に正面から見据えて、たいがいはそこにわれわれ自身のにやりとした映像を発見し、しかもその像をを素直に受けいれるやり方を心…

須賀敦子「須賀敦子全集(1)」

エッセイ集成。「ミラノ 霧の風景」「コルシア書店の仲間たち」「旅のあいまに」所収。 最初に正直に記しておくと、すでに膨大な量になっているはずの「いつかは読む著述家リスト」の中に須賀敦子の名前を加えたのは、福田和也の講談社新書「悪の読書術」を…

小川洋子「寡黙な死骸 みだらな弔い」

あまり熱のこもっていない調子で、友人がそれでもと推薦した一冊だが、その態度におおいに共感する。 完成度の高い短篇集。何気ない日常がくるりと不気味に反転する物語は、乙一を思い出す。

プラトン「国家(上)」

カフカで法とか掟とか、それの実践についてぐるぐる考えて、ああそういえばプラトンの「法律」が書棚にささってるはずだった、終わったら読んでみるの悪くないかも、とか思ってたらどっこい「国家」のほうでした、3ヶ月前に推薦されたのは。超超超古典、教養…

フランツ・カフカ「失踪者(アメリカ)」

カフカの三長編のうちの一つで、やはり未完。「城」「訴訟」では奇妙な法律/掟として描かれていたものが、「失踪者」では新興国アメリカの価値観(例えば良心より狡猾さ)として描かれている。

フランツ・カフカ「訴訟(審判)」

ある朝突然、悪事をはたらいたおぼえがないのに、ヨーゼフ・Kは逮捕された。それから1年後、31歳の誕生日の前夜、ヨーゼフ・Kは処刑された。 カフカ「訴訟」では、Kがこの1年間に囚われ続けた訴訟沙汰について、彼の生活に起こった事件についてとりまとめら…

フランツ・カフカ「城」

この冬ではじめての雪が降っている。夜が明けたら、降り止んだ雪のまぶしさで、窓の外が白んでいたらいい。 幼い頃、夜から雪が降り続いていた翌朝、雪の降りつもった明け方は、すべてのものの距離が消え失せていた。あまりの静かさは不気味すぎて、いったん…

セルマ・ラーゲルレーヴ「ポルトガリヤの皇帝さん」

Selma Lagerlöf「The Emperor of Portugalia」 自分の読書の趣味に凝り固まるのも何なので、人の薦めてくれるままの本を読むことがときどきある、ラーゲルレーヴはその一つだ。「ニルスのふしぎな旅」の著者で、女性初のノーベル文学賞受賞者。岩波文庫収録…

アデライダ・ガルシア=モラレス「エル・スール」

Adelaida Garcia Morales「the South」 こういうの読む人なんだ、って思われたらちょっとウフフな気分の装幀ですんで、六本木ABCでも堂々と表紙のほうを表に向けて会計を済ませ、地下鉄車両内でも表紙を見せびらかしながら読書してた人がここにいますよ。 数…

マルト・ロベール「カフカのように孤独に」

Marthe Robert「As Lonely As Franz Kafka」 カフカ論。 チェコ在住のユダヤ人が、ドイツ語で小説をかく。フランツ・カフカはチェコ人ではなかったから、近隣各国に蹂躙されていた当時のチェコに対する思いは、チェコ人たちほどには彼の心を占めない。また、…

フランツ・カフカ「カフカ短篇集」

ドゥルーズ+ガタリもロベールも、あまりに「判決」に言及するので、短篇を洗い直し。 カフカはアフォリズムをわかりやすい形で示すから、他のいろいろな小説が孕んでいた謎を明示してくれる。たとえば、「中年のひとり者ブルームフェルト」では、文学作品で…

椎名軽穂「君に届け(6)〜(8)」

いいすね。

エウリピデス「エレクトラ」

数年前に新国立劇場で「アルゴス坂の白い家」という劇を見た。その劇は「オレステイア」三部作のパロディで、クリュタイメストラとエレクトラの関係を中心にして描かれていた。エレクトラにあたる役柄を小島聖が演じていて、近親相姦的に父親を愛し、肉親で…

ソポクレス「エレクトラ」

アイスキュロス・ソポクレス・エウリピデスのギリシア三大悲劇作家が、同じテーマを扱って描いた戯曲では、「エレクトラ」が現存する唯一の作品らしい(原典はオデュッセイア)。 ソポクレスの描き方はかなり理性的。自らの夫を殺した母に対して復讐を遂げる…

ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリ「千のプラトー 資本主義と分裂症」

Gilles Deleuze + Félix Guattari「Mille Plateaux」 「千のプラトー」を漸く読了。「アンチ・オイディプス」の続編だが既読であることを前提にしていない、と謳ってはいるものの、全体的に論の抽象度がかなり高くて、かつ具象から抽象への飛躍が一息でおこ…

ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリ「カフカ マイナー文学のために」

Gilles Deleuze + Félix Guattari「Kafka: Toward a Theory of Minor Literature」 未読の「アメリカ(失踪者)」を加えて「訴訟(審判)」「城」の三作品(Kの物語)を読もうかなということで、かなり大回りの迂回路を通っている最中。カフカはフェリーツェ…

梅木達郎「サルトル 失われた直接性をもとめて」

わたしは、サルトルの内側にどっぷり漬かり、そこから這い出るなかで、サルトルに訣別しつつ、サルトルを論じてきたのです。本書にも、このわたしのサルトル遍歴の痕跡がいくつも残っています。わたしの論述は、わたしがいかにしてサルトルを汲み尽くしたか…

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」

うーん…黄金の竿を喪失した男が、それを置き去ってしまった孔を探し求めて放浪する話だ。あっちこっちで孔を掘りまくるんだけど、結局彼がそれを見つけたのは、自分の肛門だった…というのは嘘八百なんだけど。ドゥルーズ読んでてアンチ・ファルスに染まって…

ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリ「アンチ・オイディプス 資本主義と分裂症(下)」

Gilles Deleuze + Félix Guattari「Anti-Oedipus」 ドゥルーズ+ガタリによる、フロイトを全面批判する論文。彼らは勿論、フロイトの偉大な功績は褒め讃えるけれど、彼が産み落としてしまった胤の罪深さ、彼の後継者たちを陥れた罠を、根本から批判している…

ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリ「アンチ・オイディプス 資本主義と分裂症(上)」

Gilles Deleuze + Félix Guattari「Anti-Oedipus」 別の本のタイトルでドゥルーズが「critic and clinic」などと楽しげに述べているとおり、精神分析に関係する批判にはやっぱり臨床はつきものでしょ。という訳で、さあ診察室のソファに座ろうか。……最近、と…

フェリックス・ガタリ「カフカの夢分析」

Félix Guattari「65 rêves de Franz Kafka」 「フロイトにとっては、夢は無意識の奥深い新陳代謝が記録されたものの表面にすぎなかった。……カフカは、夢のなかの意味をなさない地点をある解釈学のくびきの下におきながら、それを増殖かつ拡大させつつ、いか…

サミュエル・ベケット「名づけえぬもの」

Samuel Beckett「The Unnamable」 ……おれがいま言っていることや、できればこれから言うだろうことは、もうなくなったことか、まだないことか、一度もなかったことか、絶対にないだろうことで、もしあったにしても、もしあるにしても、もしあるだろうにして…

フランツ・カフカ「断食芸人 四つの物語」

雑賀恵子さんのことが個人的に気になってます。空腹と食に関する本を読もうとしてて、その下準備みたいなノリで読んだんだけど。あまりにもカフカが凄まじく、むかし読んだのとは全く違う仕方でわたしは打ちのめされた。 「断食芸人」はカフカ最晩年の短篇で…

アイスキュロス「ギリシア悲劇(1)」

オレステイア三部作収録。 第一部では、戦場から帰還したアガメムノン王が、王妃クリュタイメストラと情夫アイギストスに殺害される。アイギストスはアガメムノンの家系にもともと恨みがあって、というのは彼の父親は、アガメムノンの父王の策略により、食卓…

魚喃キリコ「strawberry shortcakes」

こういうの読むと、自分はなんて健全であることかと思う。他人への嫌悪や憎しみや執着は十分に自覚しているけれど、それは必ずしも自分の苦しみへとは直結しない。だから、(このストーリーの登場人物たちのようには、)苦しみをさらけだして救済される必要…

ジャン・ボードリヤール「消滅の技法」

Jean Baudrillard「L'ART DE LA DISPARITION」 ボードリヤールの写真論。たしか、造本はきれいだけど内容は薄いよ、という留保付きで借りたんだった記憶がある。たしかに、おそらく日本語訳をする上での演出なんだと思うが、文章がマニフェストじみているし…

石川雅之「もやしもん(7)」

登場人物の美里薫は笑い飯の西田に似ていると思う。