いとうせいこう「ノーライフキング」



子供たちのあいだで爆発的に流行している「ライフキング」というテレビゲームをめぐって、子供たちの緊密なネットワーク上で流布される噂や怪情報が、社会にも影響をおよぼす。初出である21年前の当時は、ゲームソフトは明らかに子供向けに作られていたし、ハードの性能上インターフェースは簡素だった。そのように想像力がためされる条件下でなら、ゲームの世界と現実の世界とが混淆するような状況もうまれるだろう。
書店で友人が「当時これを書けたのはすごい」、解説で香山リカが「現実はすでにこの物語の先を行っている」と語った。楽しんで読むにはタイムマシンが必要だけれど、時代を遡るときに年齢も遡ることができたなら、わたしは主人公まことくんの1コ上、小学5年生だ。塾もゲームも知らなかったし、コーヒーも飲めなかったけれど。見知らぬ子供をつなげるのは情報端末ではなく、雑誌巻末のペンパル募集欄だった。イラ交しよう、ところでやおいって知ってますか?と唐突に手紙を書いてきた北海道の女の子は、いま元気だろうか。
ペンパル=文通相手、イラ交=イラスト交換