サミュエル・ベケット「また終わるために」

Samuel Beckett「For to End Yet Again and Other Fizzles」


 また終わるため 頭蓋骨だけ 出口のない暗
い場所で ひたいを板きれにおき 始めるため。
こうして 始めるための 長い とき 場所が消
え しばらくして板きれも消えてしまうまで。
だから 頭蓋骨 闇のなかでひとり終わるため
に 首も表情もない空虚 ただ箱だけ 闇のな
かの最後の場所 空虚。残骸どもの場所 ……
………… 雲のない灰色の空 終わりのない遠
景 神のため でも神の敵のため でもないもの
の 無時間の灰色の空気。ついにそこにまた
終わり のない遠景から 灰色の上に 思いがけ
ず 二人の白い小人が浮き出る。最初に長いこ
と 灰色の 空気のなか 遠すぎて 白しか見え
ず 彼らは灰色の埃のなかを 歩むごとによろ
めき 二人の間には白い担架があり それも高
みからは灰色の空気のなかに見える。ゆるやか
に担架は埃をかすめ それほど背中はたわみ


 ありし日のバベットとビーナが、あるいは彼
女たちが未来に思い描いていた自己像が、幾年
となくつづく失望とくり返し奮い立てられる希
望とによって、芯まで破壊されてしまった、と
いうことである。打ち砕かれ、永久にふたりべ
ったりの暮らしをつづけるうちに姉妹は見る影
もなく損なわれて、結果、誰からも頭のちょっ
といかれたふたりのばあさんとしか見られなく
なってしまったのだ。



※W.G.ゼーバルト「目眩まし」