ジョージ・オーウェル「動物農場」



社会的劣化が著しい、この作品は既に乗り越えられた傑作だわ、などと辛辣なこと考えながら読んでたわりには地下鉄2駅乗り過ごした。どういう性格の役者を配するかとか、伏線のひき方とか、ブラックなオチの付け方とか、今のミステリ(←広義)ではかなり多様化しているものの原型であるような感じ。面白いし読ませる力はあるけど、これが鏑矢であったことと、出版された当時の社会状況を顧慮しないと正当に評価できない類いの小説だ。ストーリーは、人間の経営していた農場をそこの家畜たちが乗っ取り運営する話で、社会風刺をふくむ寓話。ソビエト連邦に対する皮肉、というのがベーシックな読み方なのらしい。
オーウェルの年譜を見てて思ったのだが、彼は知名度のわりに「動物農場」「1984年」くらいしかメジャーな作品が無い。英国イートン校を奨学金で出て、ビルマで警官の職に就いた後、20代の後半は欧州で浮浪者のような生活を送っている。その後は、当時の政治状況に対して批判を行うような種類の職に就き、作家業を並行させている。その一方、結婚や田舎での生活というささやかな幸福を愉しんでいる。そして病気、50歳を目前にして死亡。年譜をずらっと見るだけで、こうも煩悶や主張を感じさせる人は珍しい。