「ユリイカ0705」



ル・コルビュジェ生誕120周年。去年末、着工から四半世紀を経て「フィルミニ教会堂」が落成したことも手伝って、ここ数ヶ月はあちこちでコルビュジェ特集が組まれている。
コルビュジェがそこでの余生を愉しんだ自作「カップ・マルタンの小屋(カバノン)」と、その周辺に既に建てられていたアイリーン・グレイ設計「E1027」との関係を考察した論文がいくつかあり。カバノンが家具スケールでデザインされたいくぶんヴァナキュラーな建物であったのに対し、E1027はモダニズムの白い箱であった。彼はその内壁面に女性の裸像のコンポジションを描きたくって、モダンな空間をぶちこわした。グレイは激怒したという。
もともとモダニズム思想にはロゴス中心主義的な思考、もっと言えば、男性中心主義的な思考があるようで、それそのものに女性性が関わるのは厳密には論理的な齟齬をきたしそうだ←未検証。それにモダニズムは理論的には、固有性を欠き作者不詳で良い。コルビュジェがそれを十分に認識していたのかどうか、彼と協同した女性ーグレイにしてもペリアンにしても、究極的には建築を設計するパートナーとしては認めなかったきらいがある。E1027についても、それを褒めこそはすれ、「グレイの作品」という認識は薄かったに違いない。
白い壁に壁画を描くということは、建物の透明性(≒明晰性)を損なうばかりか、額絵とは違い動かすことのできない跡を残すことによって、建物に固有性を付加し、その共時的な存在意義、インターナショナルであること、をはぎとってしまう。これは、コルビュジェ自身がそれまでは推進していたはずの運動を塗り替えるような作業であり、勿論、彼の建築に関する転向と多いに関わるだろう。
フー、カバノンは外観までしか見てないんだよね…いつか中も見たい。