大江健三郎「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」



5つの短篇を詩という視点でひと纏めにした本。多少の例外はあれ短篇は面白いというのが大江文学の原則かと(笑)。初期大江の精緻な暑苦しさと、中期以降の谷間の村の面影とが共存してる、幸福な時代です。
大江をある程度の量読み進むと、イーヨー・ギー・ジンといった名前が出てくるだけでどういう事柄を指すかという背景がぐぁーっと広がるのでお得だ。こういう、作品世界をシェアするという感覚は中期以降の大江を読んでこそなのだけれど、今までに会話した大江を相当程度読んでそうな人3人はみんな、質問されるのを待たずに、初期が好きだと宣言した。そして多分私もそう、印象に残っている作品をピックアップしてみると50年代末〜60年代末にほぼ集中している。後期の谷間の村のことそんなには詳しくないよという謙遜?イーヨーものを私小説でないと言い切れないことへの苛立ち?練りに練った安部公房的な初期大江の完璧さに対する好感?それらすべてを感じるけれど、それでもなおギーやジンのいる後期大江の世界へ分け入る価値があると思うのは、大江の描く弱者がより存在そのものを脅かされる存在へと遡るからだ。生まれながらの社会不適合者やそうであることを避けられない者を選んで、嘲笑的とも思えるほど冷徹な描き方をすることは初期の大江にはなかった。せいぜいが、予め地位を担保されていた者の挫折どまりではないか。←だったよね。。たしか。。