オノ・ナツメ「not simple」



2年前、ウェブコミックcomic seed!」に連載されていたのを読んでいた。同時掲載の他の作家がことごとくシュミにあわなくてもチェックし続けられていたのは、購読無料だったからとひとえに「not simple」が良かったからだった。この連載が完結した直後に出版社が倒産してウェブコミックは閉鎖され、書籍化される目処がはっきりとはついていなかったので、六本木ABCにこの本が平積みされてるのを見てほんとに良かったと思った。


通しで読むといろいろ気づくことがある。
まず、ストーリーの結末をプロローグに、ストーリーの起こりをエピローグにしていること。イワンくんは人生もその最期も悲運そのもの。最初に結末を知らされることでより一層その凄絶な悲しさが、進行していくストーリー全体を覆い尽くす。その一方で、最後には、まだ期待を感じさせることのできた時代の彼が語られるので、彼の人間的な魅力や接した人の温かさが、懐古的な色を伴って強く現れるのだ。
あと、このような逆オイディプスとも言える事態はリアリティあるなと。幼年期の近親姦タブー形成において、(母/息子)と比べ(父/娘)は写像関係がずいぶんと遠回しにされていたような…印象をラカンからは受けたのですけど。既に同性愛タブーはさほど敷衍的ではない、もし仮に近親姦タブ−が侵犯されうるのであれば、まず(父/娘)が先陣を切るような気がしなくもない。(それに、オタクアニメとか低年齢アイドルとか見るにつけ、ペドフィリアがポピュラーになりつつあるようにも見える?)
近親姦が当事者の間でさしたるタブーではないとき、タブーを犯したという罪悪感は子供へとそっくり手渡されるんだろうか。イワンくんのように。